『IPアドレス開示請求』で誹謗中傷加害者を暴く

  • 2017.10.09
『IPアドレス開示請求』で誹謗中傷加害者を暴く

 インターネット上で何らかの誹謗中傷を書き込まれたことはありませんか?事実無根の場合、それは実に耐え難いことです。そこで今回は、IPアドレスを使い、書込みをした加害者を徹底的に暴く方法をご説明します。

書込みをした人物を“辿る”

 SNSやブログ等、インターネットにおいて誹謗中傷するようなコメントを書込まれた際、基本的に加害者は匿名で行うケースが多いため、その書込みをした人物の特定は困難です。
 そこで、直接加害者に連絡をとることは至難の業ですので、問題の起きたサイトの管理人(運営会社)やプロバイダから書き込んだ人物の個人情報の開示を求めるのが、『発信者情報開示請求』です。
 

専門用語と難しい説明

 ここまでお読みになると、「開示請求とは難しそうだ」と感じられた方も多いでしょう。見慣れない単語にも不安になります。しかし、それは誰しも同じことです。ですので、気楽に続けていきたいと思います。
 さて、書込みをした人物を特定するための流れは、コンテンツプロバイダ(またはホスティングプロバイダ)→インターネットサービスプロバイダ(ISP)と辿り、最終的に契約者の情報を開示してもらう必要があります。

もっと砕いて自分のものにする

 さっそくIT用語連発ですが、かんたんにすると、

・インターネットサービスプロバイダ(ISP):ユーザーがインターネット契約する会社
・コンテンツプロバイダ:情報を提供する事業の運営者

です。つまりこれらの用語を合わせると、加害者特定のためには『ユーザーと情報(コンテンツプロバイダ)を結ぶ架け橋(インターネットサービスプロバイダ・ISP)』が必要、と言えます。

加害者を詰めるための方法

 仮に、問題がある書込みがあると、コンテンツプロバイダは基本的には加害者のサーバにアクセスされた履歴や、そのサイトを利用する際に登録したメールアドレスやパスワードといった情報を持っています。

コンテンツプロバイダが持つ情報

 例を挙げると、Twitter(=コンテンツプロバイダ)にツイートした(=サーバにアクセス)履歴やメールアドレス・パスワードといった情報がコンテンツプロバイダ(=Twitter)に残るということです。
そこで、コンテンツプロバイダに対しては、サーバにアクセスされた履歴、具体的には、IPアドレスとタイムスタンプ等の情報の開示を求めることで、加害者にさらに一歩近づくことが出来ます。

IPアドレス・タイムスタンプ

 IPアドレスとは、PCやスマートフォン等の、ネットワーク上で通信するための回線に、インターネットサービスプロバイダにより割り当てられた数字です。イメージとしてはインターネット上での住所のようなものです。
 実はIPアドレスの数は限りがあります。そこで、各インターネットサービスプロバイダ(ISP)の契約者全員に各々の番号を割り振ってしまうと、数が足りなくなります。そのため、接続の度にIPアドレスをランダムに割り振る措置が取られています(これを「動的IPアドレス」といいます)。
但し、企業等によっては、ひとつの(もしくは複数の)IPアドレスを買い取っていることもあります。そのメリットとしては、会社内のIPアドレスを1つだけにすると、セキュリティ能力が上がる、といった点です。
基本的に、誹謗中傷を書き込むような人物は、プライベートの端末を使うことが多いです。万が一サイトが炎上したような場合に、足のつく会社のPCを使うとは考え難いからです。
そこで、書込みをした人物を特定するには、タイムスタンプというものが必要になるのです。タイムスタンプとは、データの作成やアクセス等がなされた日時を記録する、「2005-19-30 T 10:45 UTC」のような文字列です。
これらを総合すると、加害者が契約しているインターネットサービスプロバイダ(ISP)特定のIPアドレスが、タイムスタンプで記録された日時に割り振られていた、と分かることで初めて、誰が書込みをしたのかが分かるのです

IPアドレスの開示請求

 IPアドレスの開示請求の方法には、裁判を使わない方法と裁判を使う方法があります。

裁判は使わない

 裁判を使わない方法では、一般社団法人であるテレコムサービス協会の「発信者情報開示請求書」を(詳細は後述)使用します。
 テレコムサービス協会は「プロバイダ責任制限法 発信者情報開示関係ガイドライン」の改訂等を執り行っている団体です。
 テレコムサービス協会が提供する書式は、予めポイントを押えた項目が揃っているので、便利で分かりやすいものです。記入が済んだら、この書類をコンテンツプロバイダに送ることで、開示請求が始まります。

裁判を使う

 サイト運営者に対してIPアドレス開示や書込みの削除請求をしても、任意で応じてくれないケースがあります。
 そのような場合、運営者に対して仮処分という裁判手続を行う必要があります。仮処分で、「開示せよ」という判決が出れば、コンテンツプロバイダ(運営者)はIPアドレスを開示してくれることが通常です。
ただ、コンテンツプロバイダは発信者(加害者)が誰なのかという情報までは持っていないのが普通で、情報があったとしても、メールアドレス程度です。
 そのため、①メールアドレスが分かる場合は、メールアドレスに対して連絡を行い、②連絡先が分からない場合には、この照会手続は省略することになります。
 結果として、発信者(加害者)が開示に同意すればインターネットサービスプロバイダは情報を開示してくれますが、同意しないとなれば、開示しないのが一般的です。
但し、仮処分の場合、「開示せよ」という決定を裁判所が出せば、インターネットサービスプロバイダは普通はその決定に従って開示してくれます。

テレコムサービス協会の書式による開示請求

 ではここで、実際に書式による開示請求の仕方を見ていきましょう。

開示の流れ

 テレコムサービス協会のサイトに、発信者情報開示請求書という書式があります。開示に向けて、以下の手順を踏んでください。
○手続の方法
⇒コンテンツプロバイダ(またはホスティングプロバイダ)に対して、通常は郵送します。
○必要書類(本人からの依頼なのかを判断するために、)
⇒・実印を押した発信者情報開示請求書
・印鑑証明
・身分証の写し
○証拠
⇒証拠として保存したスクリーンショット等
 (掲示板であれば個別のスレッドのどのレス番号の書込みなのか、ブログであればどの記事なのか、ということを記載しなければなりません。)

発信者に対する意見聴取

書類を受け取ると、コンテンツプロバイダ(またはホスティングプロバイダ)は、書類の不備を確認します。問題がなければ、どのような内容が、どこに書き込まれたのかをチェックします。
また、コンテンツプロバイダ(またはホスティングプロバイダ)は発信者に対して、意見聴取を行います。
 意見聴取とは、プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドラインによると、

 法第4条第2項は、発信者情報の開示請求への対応に当たっては、プライバシーや表現の自由、通信の秘密等、発信者の権利利益が不当に侵害されることのないよう、原則として、開示するかどうかについて発信者の意見を聴かなければならないことを規定している。そこで、プロバイダ等は、(中略)発信者に対する意見照会書により、発信者情報の開示に対する発信者の意見を聴取することとする。

と定められています。
 意見聴取の結果、発信者が開示請求に同意すれば、コンテンツプロバイダ(またはホスティングプロバイダ)は情報の開示をしてくれます。
 一方、発信者は意見聴取されなければならないものの、その意見に従わなければいけないわけではありません。そのため、発信者が開示請求に同意しない場合でも、コンテンツプロバイダ(またはホスティングプロバイダ)が、権利の侵害が明らかだと判断した場合には、開示されることもあります。

発信者情報開示請求書の書き方

 では、発信者情報開示請求書は、どのように書けばよいでしょうか。

(引用元:http://www.isplaw.jp/d_form.pdf)
① 左上の「[特定電気通信役務提供者の名称]」に、開示を請求する相手となるコンテンツプロバイダ(またはホスティングプロバイダを記載する
② 「[権利を侵害されたと主張する者]」には、自分の住所、氏名等を書く(企業であれば、氏名には企業名とともに、対応者の名前、電話番号、メールアドレス等を記載)
③ 氏名(企業名)の横には、実印を押す
④ 表の1番目の「[貴社・貴殿]が管理する特定電気通信設備等」には、URLを記載する(特定電気通信設備とは、インターネットを利用するための設備(サーバ等)を指す。URLを明記すれば特定電気通信設備を示したことになる)
⑤ 表の2番目の「掲載された情報」には、問題の書込みがどのような内容を含んでいるのかを要約する
⑥ 表の3番目の「侵害された権利」には、名誉権やプライバシー権といった記載をする
これは、次の「権利が明らかに侵害されたとする理由」に記載する内容と密接に関わるので、2つの整合性を図る
⑦ 表の4番目の「権利が明らかに侵害されたとする理由」は、書込みが自分の権利を侵害していることを説明する。なお、背景事情、違法性阻却事由がないことも説明する
⑧ 表の5番目の「発信者情報の開示を受けるべき正当理由」には、当てはまるものにマルをつければよい。正当理由がないとされるものの代表例としては、嫌がらせ目的が考えられる
⑨ 表の6番目の「開示を請求する発信者情報」には、開示を求めたい情報にマルをつければよい。
※4番目の項目名が、削除依頼書では「権利が侵害されたとする理由」となっていたのに対して、発信者情報開示請求書では、「権利が明らかに侵害されたとする理由」となっています。
 両者の違いの「明らかに」という言葉は、不法行為の成立が認められるという状況に加えて、違法性阻却事由がないと言えることをも含む、と解釈されているからです。「阻却」とは、妨げることを意味するので、違法性がないと言える事情がないことを説明する必要もあるのです。
※5番目ではわざわざ嫌がらせ目的があるとここに書く人はいませんが、状況から判断して嫌がらせ目的であるとされる例もあるので、注意が必要です。
例えば、開示請求をしている人がSNS等で嫌がらせをすることをほのめかした場合等、逆に『開示請求が嫌がらせ目的』とされ、開示に正当を理由がないとされることがあり得ます。


☆写真入れる:hammer

発信者情報開示仮処分

 サイト運営者に対する発信者情報開示請求については、削除請求と同様に、仮処分の手続を利用することが一般的です。
 担保金の額については10~30万円となることが多く、通常は、後日担保金の還付を受けられる点も削除の仮処分と同様です。

仮処分の2要件

 以上の通り、発信者情報開示請求は裁判でなくても出来ますが、開示されない場合は、裁判所に仮処分を求めます。
 そのような仮処分には、次の2つの説明をする必要があります。
① 発信者情報開示請求権があること
② 早急に決定が出ないと回復出来ないような損害が生じる恐れがあること
① については、具体的には、相手方である債務者が特定電気通信役務提供者であることの説明や、特定電気通信設備を保有していることの説明のほか、自分の権利が侵害されたことの説明などを行います。
② については、「保全の必要性」とも呼ばれます。コンテンツプロバイダもホスティングプロバイダも、さらにはインターネットサービスプロバイダ(ISP)も、通信ログを保存している期間は3ヶ月程度のことが多いです。
※そのため、早急にIPアドレスやタイムスタンプを開示してもらえなとログが消えてしまい、書込みをした人物の特定が出来なくなるかもしれません。

裁判所の管轄

 発信者情報開示請求仮処分は、コンテンツプロバイダ(またはホスティングプロバイダ)の所在地を管轄する地方裁判所のみが管轄裁判所となります。なお、管轄が同じであれば、削除仮処分と発信者情報開示仮処分を1つの申立で行うことも出来ます。

終わりに

 「IPアドレスはインターネット上の住所だけど、そこから個人までは遡ることは出来ない」と考えている人が多数だと思います。しかし、ここまで見てきた手段をとれば、裁判所が申立に一応の理由があると判断し「開示せよ」という仮処分がくだされ、加害者を特定出来るということです。
 確かに専門用語ばかりでしたが、ひとつひとつ手繰り寄せていけば、出来ないことではありません。
 繰り返しになりますが、インターネット上であっても、被害を受けた時には発信者(加害者)の身元を割ることは「絶対に無理」ではありません。3ヶ月というリミットの中で、ITに強い弁護士と共にインターネットの闇を暴いてください。