業務妨害罪とは:条文と構成要件から紐解いて解説

業務妨害罪とは:条文と構成要件から紐解いて解説

 テレビやラジオ等のニュースから「○○を業務妨害罪の疑いで調査を進めています」といたったシーンを見聞きします。みなさんは、業務妨害罪の明確な定義をご存じでしょうか。

 

業務妨害罪とは

 業務妨害罪とは、嘘の情報を流したり人を騙したりして、他人の業務を妨害する行為に対して成立する罪のことをいいます。例えば、以下を妨害すると業務妨害罪に該当する可能性があります。

・飲食店やスーパー、家電量販店、デパート等の営業
・会社の事業
・ビジネスマンの業務
・セミナー
・音楽ライブや展示会等の各種イベント
・組合の活動
・ボランティア活動
・サークル活動

 一般的に「業務」とは、仕事に従事する行為のことを指しますが、ここでいう「業務」は精神・文化的な活動も含まれます。そのため、ボランティア活動等も含まれるのです。

 

業務妨害罪の種類

 ただ、業務妨害罪と一口に言っても、妨害する手段によって下記3種類に分けられます。

・偽計業務妨害罪
・威力業務妨害罪
・電子計算機損壊等業務妨害罪

 ひとつずつ説明させていただきます。

偽計業務妨害罪の条文と構成要件

 偽計業務妨害罪は下記の条文で定められています。

刑法233条

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

 上記の条文が分かりやすくなるよう、「①虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて」と「人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者」の2つに分けた上で、偽計業務妨害罪の構成要件を説明させていただきます。

①虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて

 「虚偽の風説を流布し」とは、真実とは異なる噂や情報を不特定多数の人に伝えることをいいます。
 また、「偽計を用いて」の”偽計”とは、他人を騙す行為のことを指します。

②人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者

 人の信用を毀損した場合は、信用毀損罪に問われます。
 「業務を妨害した者」の“業務”は、既述の通り仕事だけでなく精神・文化的な活動も含まれます。
 以上①②から、偽計業務妨害罪の構成要件は、「騙したり、真実とは異なる情報を不特定多数の人に伝えたりして、業務を妨害した者」と言えるでしょう。

偽計業務妨害罪の例

 偽計業務妨害罪が成立する例は、以下が挙げられます。

■事件や事故に便乗したデマ

 事件や事故、災害に便乗したデマを発信・拡散すると偽計業務妨害罪に当たります。
 例えば、「先日の台風の影響で○○工場から流れたオイルが××温泉に流れたようだ」「地震の際に、近くの△△動物園からライオンが逃げ出した」といったようなデマをSNS等で発信すると、偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。

■会社やお店の虚偽情報

 会社やお店の虚偽情報を発信・拡散すると偽計業務妨害罪に当たります。
 例えば、「○○会社はパワハラがすごい」「××店はゴキブリやネズミが大量に発生して不衛生」といったような虚偽情報を発信すると、○○会社や××店に対する偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。

■嘘情報を流し警備を強化させる

 犯行予告等の嘘の情報を発信し警備を強化させると、偽計業務妨害罪に当たります。
 例えば、SNSに「○○駅で無差別殺人を実行する」と書き込みをし○○駅に、××警備会社から警備員が増員したり、△△警察署の警察官が出動したりしたとします。その場合、××警備会社と△△警察署に対する偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。

■バイトテロ

 バイトテロとは、バイト先で悪ふざけした動画をユーチューブ等で配信・拡散する行為のことをいいます。
 例えば、バイト先のファーストフード店内で、床に食材を落として皿に戻したりする動画や、料理に唾を吐く動画等をアップしたとします。そのような行為はバイト先のファーストフード店に対する偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。

威力業務妨害罪の条文と構成要件

 偽計業務妨害罪の条文は以下の通りです。

刑法234条

威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

 上記の条文が分かりやすくなるよう、「①威力を用いて」と「②人の業務を妨害した者」の2つに分けた上で、威力業務妨害罪の構成要件を説明させていただきます。

①威力を用いて

 ここでいう「威力」とは、身体的な暴力だけでなく、精神的な脅迫も含まれます。

②人の業務を妨害した者

 前出の通り、「業務を妨害した者」の“業務”は、既述の通り仕事だけでなく精神・文化的な活動も含まれます。
 以上①②から、威力業務妨害罪の構成要件は、「身体的な暴力や精神的な脅迫で業務を妨害した者」と言えるでしょう。
 なお、条文の末尾の「前条の例による」は、刑法233条の規定にある「三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」のことを指しています。

威力業務妨害罪の例

 威力業務妨害罪が成立する例は、以下が挙げられます。

■会社やお店に悪質なクレーム

 会社やお店に悪質なクレームをした場合、威力業務妨害が成立する可能性があります。
 例えば、「(机を叩きながら)オイ、話聞いてんのか?どうするのかって言ってんだよ!」と大声で怒鳴る行為が悪質なクレームに該当するでしょう。なお、電話等でそのような行為をしても、威力業務妨害罪が成立する可能性があります。

■モンスターペアレント

 モンスターペアレントとは、学校等の教育機関に対して自己中心的かつ理不尽な要求をする親のことをいいます。モンスターペアレントによって学校の業務が妨害された場合は、威力業務妨害罪に該当する可能性があります。

■故意に営業妨害

 例えば、旅館で客室の風呂場から水をあふれさせ、部屋を水浸しにして使用不可能にしたとします。その場合、事故による場合は、業務妨害罪には当たりません。しかし、故意に水浸しにして使用不可能の状態にした場合は、旅館に対し威力業務妨害罪が成立する可能性が考えられます。

電子計算機損壊等業務妨害罪の条文と構成要件

 偽計業務妨害罪の条文は以下の通りです。

刑法234条の2

人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

 条文にある電子計算機とは、コンピュータのことを指します。そのため、パソコンやスマホ、管理システム等が電子計算機に該当します。 
 また、電磁的記録とは、コンピュータに保存されているデータのことを指します。
 電子計算機損壊等業務妨害罪は、以下に列記した方法で業務を妨害した場合に、構成要件を満たすと言えるでしょう。

・電子計算機の損壊
・電子計算機の電磁的記録の損壊
・電子計算機に虚偽の情報や不正指令を与えた
・その他の誤作動を起こさせた

電子計算機損壊等業務妨害罪の例

 電子計算機損壊等業務妨害罪が成立するケースは、以下が挙げられます。

■会社のパソコン内のデータを改ざんして業務を妨害
■他人にパソコンのウイルス等を送り込み、業務を出来ないようにさせた
■他人のパソコン内の保存されていたデータを壊して業務を妨害
■他人のホームページの情報を改ざんして業務を妨害

 

親告罪と未遂罪

 犯罪には、親告罪と未遂罪の2種類があります。業務妨害罪は親告罪と未遂罪に該当するのでしょうか。
 親告罪とは、事件にする際、被害者からの訴えを必要とする犯罪のことをいいます。業務妨害罪は、親告罪ではありません。ですので、被害者からの訴えがなくても事件として立件される可能性は否定出来ません。
 また、業務妨害罪は未遂罪でもありません。未遂罪とは、未遂行為でも成立する犯罪のことを指します。そのため、業務妨害罪は、実際に業務妨害を受けないと成立しません。

 

業務妨害罪の時効

 犯罪には控訴時効が適用されます。公訴時効とは、検察官が起訴するまでの期間に適用される時効のことをいいます。
 業務妨害罪の公訴時効は3年です。業務妨害罪に当たる行為をしたとしても、3年を過ぎると公訴時効が成立し、起訴される可能性はなくなります。

 

威力業務妨害罪と似て非なる罪の違い

 法律ではあらゆる罪の規定があります。なかには、威力業務妨害罪と似た非なる罪が存在します。ここでは、それらの罪と威力業務妨害罪の違いについて説明させていただきます。

【違い①】公務執行妨害罪

 公務執行妨害罪とは、暴行や脅迫の手段を用いて公務員の業務を妨害した際に成立する罪のことをいいます。例えば公務員である警察官を殴ったり捜査の邪魔をしたりすると公務執行妨害罪が成立します。
 110番で「○○に爆弾を仕掛けた」と爆破予告をして警察が出動した場合も、公務執行妨害が成立するでしょう。

 但し、SNSで「○○に爆弾をしかけた」と爆破予告をし、警察が出動した場合は、警察は間接的に業務を妨害されているため、公務執行妨害ではなく威力業務妨害が成立する可能性があります。

【違い②】脅迫罪

 脅迫罪とは、生命や身体、自由、名誉、財産に対し、危害を加える旨を告知して人を脅す行為に対して成立する罪のことをいいます。
 脅迫罪と威力業務妨害罪の違いは、成立する要件が異なる点です。
 業務を妨害した行為に対して成立する威力業務妨害罪に対し、脅迫罪は人を脅す行為に対して成立する罪なのです。

【違い③】名誉棄損罪

 名誉棄損罪とは、他人の社会的評価を下げる行為に対して科せられる罪のことをいいます。
 名誉棄損罪と威力業務妨害罪も成立する要点が異なります。
 業務を妨害した行為に対して成立する威力業務妨害罪に対し、名誉棄損罪は社会的評価を下げた行為に対して成立する罪なのです。

【詳細記事】法律上の名誉毀損とは?わかりやすく解説

【違い④】信用毀損罪

 信用毀損とは、嘘の情報を流したり人を騙したりして他社の信用を侵害する行為のことをいいます。
 業務妨害罪と信用毀損罪の違いは、被害の内容です。業務を妨害した行為に対して成立する業務妨害罪に対して、信用毀損罪は経済的信用を損なわせた行為に対して成立する罪なのです。

【詳細記事】信用毀損罪とは:「構成要件」「成立要件」「例」を交えて詳しく解説

 

威力業務妨害罪と関連性の強い罪

 威力業務妨害罪には、似て非なる罪だけでなく関連性の強い罪も存在します。それらの罪は、様々な「威力」を用いて業務を妨害した場合に課せられる威力業務妨害罪に比べ、成立する要件が狭いことが共通点に挙げられます。

【関連①】不退去罪

 不退去罪とは、お店から退去を命じられているにも関わらず、いつまでも居座る行為に対して成立する罪のことをいいます。一種の業務妨害と言えるでしょう。
 既述の通り、様々な「威力」を用いて業務を妨害した場合に課せられる威力業務妨害罪に対して、不退去罪はいつまでも居座って業務妨害する行為に対してのみ成立する罪です。

 威力業務妨害罪に比べ、不退去罪は成立する要件が限定的です。

【関連②】列車往来危険罪

 列車往来危険罪とは、列車を脱線や転覆、衝突等で損壊させた行為、もしくはその恐れのある行為に対して成立する罪のことをいいます。
 例えば、線路の上に大きな石を置いた場合、列車が脱線するおそれがあるので、列車光来危険罪が成立する可能性が考えられます。

【関連③】犯人隠避罪

 犯人隠避罪とは、罰金以上の刑に当たる罪を犯した者や捜査機関等が拘束中に逃亡した者の発見・逮捕を妨げた行為に対して成立する罪のことをいいます。
 例えば、罪を犯した知り合いを自宅にかくまった場合、かくまった行為に対して犯人隠避罪が成立する可能性があります。