信用毀損罪とは:「構成要件」「成立要件」「例」を交えて詳しく解説

信用毀損罪とは:「構成要件」「成立要件」「例」を交えて詳しく解説

 商売の世界では「一度失った信用は、取り戻すまでに7代かかる」と言われています。それだけ、信用を築き上げるのは難しいのです。そんな信用を他者が邪魔をして損なわせた場合、信用毀損罪で罰せられる可能性があります。

 本記事では、信用毀損罪について深掘りしていきたいと思います。

 

信用毀損罪の構成要件

 信用毀損とは、嘘の情報を流したり人を騙したりして他社の信用を侵害する行為のことをいいます。ただ、信用毀損罪として認められるためには、一定の要件を満たしていなければなりません。
 その構成要件は、以下の条文で定められています。

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。(刑法第233条)

 条文が分かやすくなるよう、「①虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて」と「②人の信用を毀損した者」の2つに分けて説明させていただきます。

①虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて

 「虚偽の風説を流布し」とは、真実とは異なる噂や情報を不特定多数の人に伝えることをいいます。
 また、「偽計を用いて」の”偽計”とは、他人を騙す行為のことを指します。

②人の信用を毀損した者

 ここで言う信用とは、過去の判例文で「経済的信用の全般を意味する」と明記されています。
 つまり、「人の信用を毀損した者」とは他人からの経済的信用を損なわせた者のことを指します。経済的信用は、支払い能力等の経済能力や商品・サービスの質に対する社会的信頼等が含まれます。

 以上①②から、信用毀損罪は、「騙したり、真実とは異なる情報を不特定多数の人に伝えたりして、他人からの経済的信用を損なわせた者」に対して罰せられる罪と言えるでしょう。

 

信用毀損罪に該当する例

 では具体的にどのような嘘の情報を流した場合に信用毀損罪が科せられる可能性があるのでしょうか。例えば以下のような例が挙げられます。

■人の経済力や支払い能力をおとしめる嘘

「あの会社は、経営が火の車になっていて、いずれ潰れる。」
「あの会社は、倒産寸前だから関わらない方がいい。」
「あいつは、自己破産の経験があるから融資は絶対にするな。」
「〇〇社と取引をしたら、支払いをしてもらえなかった。」

■商品・サービスの質をおとしめる嘘

「あの飲食店は、腐りかけの食材を使って料理を提供している。」
「〇〇社の食品は産地偽装している。」
「あそこのエステはサービスが悪い。」

 

信用毀損罪の成立要件

 但し、以上で挙げた例が全て信用毀損罪に該当するとは限りません。信用毀損罪は前出の構成要件の他に、次に挙げる成立要件も満たしていなければならないためです。

【成立①】情報が真実とは異なる

 構成要件からも分かるように、信用毀損罪は、真実とは異なる情報を伝えた行為に対して成立する犯罪です。そのため、社会的信用を損なわせたとしても、伝えた情報が真実である場合、信用毀損罪は成立しません。

【成立②】故意である

 信用毀損罪は故意の行為に対して成立する犯罪です。ですので、嘘と知らず情報を流していたり、人を騙すつもりではなかったりした場合は、信用毀損罪は成立しません。

【成立③】実際に信用を損なわれた否かは問われない

 信用毀損罪は、実際に社会的信用を損なわせたかどうかは問われません。信用を損なわせる可能性があれば、信用毀損罪は成立するのです。
 
このように、事象が発生しなくても成立する犯罪のことを「抽象的危険犯」と呼びます。

 

信用毀損罪は親告罪でない

 信用毀損罪は親告罪(立件する際、被害者からの訴えを必要とする犯罪)ではありません。ですので、被害者からの訴えがなくても事件として立件される可能性は否定出来ません。

 

信用毀損罪と混同されやすい犯罪

 信用を損なわせたことに対して科せられる犯罪には、信用毀損罪以下もあります。そのため、しばしば他の犯罪と混同されやすいです。
 ここでは、信用毀損罪と混同されやすい下記の犯罪との違いを説明させていただきます。

・名誉毀損罪
・業務妨害罪

 信用毀損罪とどのように異なるのか見ていきましょう。

名誉毀損罪と信用毀損罪の違い

 名誉毀損罪とは、不特定多数の人の伝わる可能性がある場で、人の社会的評価を下げる行為を行った場合に科せられる犯罪のことをいいます。
 一見すると、名誉毀損罪は、信用毀損罪と同じように聞こえます。しかし、明確な違いが2点挙げられます。以下の通りです。

真実と嘘

 名誉毀損罪は信用毀損罪と異なり、伝える情報が嘘でなくても成立します。

 例えば、インターネット上に「〇〇は自己破産を繰り返しているから関わらない方がいい」という事実を書き込んだとします。その場合、嘘の情報ではないので信用毀損罪は成立しません。しかし、名誉毀損罪が成立する可能性が考えられます。

社会的評価と経済的信用

 経済的信用を下げた行為に対して科せられる信用毀損罪に対して、名誉毀損罪は社会的評価を下げた行為に対して科せられます。

 例えば、「〇〇は暴力団関係者だ!」という嘘の情報を不特定多数の人に伝えたとします。その場合、経済的信用は損なわないため信用毀損罪は成立しない可能性があります。しかし、社会的評価が下がるおそれがあるため名誉毀損罪は成立するかもしれません。

【詳細記事】法律上の名誉毀損とは?わかりやすく解説

業務妨害罪と信用毀損罪の違い

 業務妨害罪とは、嘘の情報を流したり人を騙したりして、他人の業務を妨害する行為に科せられる犯罪のことをいいます。

 業務妨害罪と信用毀損罪が異なるのは、被害の内容です。経済的信用を損なわせた行為に科せられる信用毀損罪に対して、業務妨害罪は他人の正常な業務運営を阻害した行為に科せられる犯罪です。

 例えばインターネット上に、ある会社の商品の質をおとしめるような嘘の情報を書き込み、クレームの電話が殺到して通常業務に支障を来したとします。
 その場合、嘘の書き込みをした行為に対して信用毀損罪が成立します。また、企業の通常業務に支障を来したことに対して業務妨害罪が成立します。