プロバイダ責任制限法とは?わかりやすく解説

 インターネットが普及し、日常生活の上でも必需品となった現代で、ネット上で顔も名前も知らない人物とトラブルになることも少なくありません。
 この記事では、ネット上のトラブルに巻き込まれた際に、役立つ法律「プロバイダ責任制限法」について、わかりやすく解説いたします。

 

プロバイダ責任制限法とは

 プロバイダ責任制限法とは、インターネット上で問題が起きた際の、サイト運営者やプロバイダに問われる責任について規定した法律のことをいいます。2002年5月に施行されました。
 プロバイダ責任制限法の正式名称は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」です。

 

プロバイダ責任制限法が必要な理由

 なぜ、プロバイダ責任制限法が制定されたのでしょうか。
 昨今、SNSをはじめとしてインターネット上で、多くの人がお互いの顔を知らない状態でコミュニケーションを取っています。そのようなインターネットを介した新たな形のコミュニケーションは、名誉毀損や<プライバシーの侵害等、権利を侵害される誹謗中傷の温床になっているのです。

 サイト運営者やプロバイダは、誹謗中傷等のトラブルが起きた際、該当する書き込みを削除する権限があります。しかし、書き込みをした人にも「表現の自由」が保障されています。そのため、投稿を削除されることは、表現の自由を奪われる行為に当てはまるおそれがあります。

 削除をしなければ、誹謗中傷の被害者から「あなたたちが提供しているサイトで、誹謗中傷を受けて名誉を毀損された」として損害賠償請求をされるかもしれません。

 とはいえ、削除をすれば投稿者から「書き込みを勝手に削除する行為は、表現の自由を侵害する行為なので損害賠償請求をする」と責任を追及されるリスクも孕んでいます。

 このように、削除の可否に関わらず、サイト運営者やプロバイダは、常に書き込みをした人と誹謗中傷の被害者の間で板挟み状態になっています。
そのため、サイト運営者やプロバイダを保護する必要性が高まったのです。

 そこで、サイト運営者やプロバイダの重荷を軽くすることを目的に、要件を満たせば責任を免れることが出来る規定が盛り込まれたプロバイダ責任制限法が制定されたのです。

  プロバイダ責任制限法は、サイト運営者やプロバイダを保護するために必要な法律と言えるでしょう。

 

プロバイダ責任制限法で定められている要件

 先述のプロバイダ責任制限法で定められている要件について触れていきましょう。それには、大きく2つの規定があります。

誹謗中傷の被害者からの責任を免れる要件

 まずは、誹謗中傷の被害者からの責任を免れる要件について見ていきましょう。プロバイダ責任制限法3条1項で、次のような内容で定められています。

名誉毀損等で誰かの権利が侵害されている情報に対して、サイト運営者やプロバイダが削除に応じた場合、その行為に対しての損害賠償等の責任は負わない。但し、情報の送信を防止出来る状況下に限る。

 ですので、誰かの権利が侵害された情報があることを把握しているにも関わらず、削除に応じなかった場合は、誹謗中傷の被害者から責任を追及されても免れることが出来ない可能性があります。

書き込みをした人からの責任が制限される要件

 対して、書き込みをした人からの責任を免れる要件について、プロバイダ責任制限法3条2項で次のような内容で定められています。

サイト運営者やプロバイダが、名誉毀損等で誰かの権利が侵害されている情報を削除した場合、当該の書き込みをした人から責任を追及されても免れることが出来る。
また、権利を侵害されたとして削除の申請があり、その旨を書き込みをした人に連絡したにも関わらず7日間、反論がないため削除に応じた場合、書き込みをした人から責任を追及されても免れることが可能である。

 上記から分かることは、誰かの権利が侵害されていないにも関わらず削除をした場合は、書き込みをした人から責任を追及されても免れられないということでしょう。
 また、削除の申請があったことを書き込みした本人に連絡し、7日以内に反論の連絡をもらったにも関わらず削除に応じた場合は、書き込みをした人から責任追及されても免れることは出来ないでしょう。

 

送信防止措置請求と発信者情報開示請求

 これまでは、プロバイダ責任制限法がサイト運営者やプロバイダを保護する役割があることについてお伝えしました。しかし一方で、誹謗中傷の被害者を保護する役割も担っています。
 誹謗中傷の被害者を保護する役割を持つ規定として、送信防止措置請求と発信者情報開示請求があります。

送信防止措置請求とは

 送信防止措置請求とは、誹謗中傷の被害者が、サイト運営者やプロバイダに削除を求めることをいいます。プロバイダ責任制限法では、誹謗中傷の被害者が送信防止措置請求を出来る権利が認められています。
 送信防止措置請求を受けたサイト運営者やプロバイダは、適切な対応を採らなければなりません。

発信者情報開示請求とは

 発信者情報開示請求とは、誹謗中傷の被害者が、サイト運営者やプロバイダに対し書き込みをした人の情報の開示を求めることをいいます。発信者情報開示請求が認められると、書き込みをした人の氏名や住所、メールアドレス等の情報が開示されます。

 以上の送信防止措置請求と発信者情報開示請求が、プロバイダ責任制限法内で定められていることにより、誹謗中傷の被害者から削除要請等のアクションを起こすことが可能なのです。

 

プロバイダ責任制限法が適用された事例

ここでプロバイダ責任制限法が適用された事例を紹介します。

 無料ブログの運営を行っているAさんは、Bさんにブログの利用を承認していました。Bさんは、Cさんに関する名誉毀損に当たる内容のブログを投稿していました。

Aさんは、Bさんの行為を把握しておきながらも、問題のブログの削除対応を行いませんでした。

誹謗中の被害者CさんはAさんに対し、損害賠償の請求と送信防止請求、発信者情報開示請求を行う裁判を起こしました。

その結果、以下の判決が下りました。

・無料ブログの運営者Aさんは、被害者のCさんに損賠賠償50万円の支払う
・Aさんは送信防止措置を行う
・AさんはCさんに対し、名誉毀損に当たるブログを投稿したBさんの住所・氏名の開示を行う

 

終わりに

 サイト運営者やプロバイダは、インターネット上でトラブルが起きた際、書き込みをした人と誹謗中傷の被害者の両者から責任を追及される立場にあります。
 そのような板挟み状態を解消する目的としてプロバイダ責任制限法が制定されました。
 一方で、プロバイダ責任制限法には、誹謗中傷の被害者を保護する送信防止措置請求と発信者情報開示請求についての規定も盛り込まれているのです。

 つまり、サイト運営者・プロバイダと誹謗中傷の被害者の両者の保護の役割を担っているのがプロバイダ責任制限法と言えるでしょう。
 本記事をお読みになり、プロバイダ責任制限法について理解が深まっていただけたら幸いです。