2016年、警察によるGPS操作が重大なプライバシーに当たるかどうかが争われた事件がありました。その事件では、警察が令状を取らずに、窃盗グループのバイクや車にGPSを取り付けて、足取りを調査していたことがプライバシーの侵害に当たる、と原告が訴えました。
結果、裁判で「プライバシーの侵害に当たる」という判決が下されました。
全国では、プライバシーの侵害に当たるかどうかの裁判が多く行われています。ただ、プライバシーの侵害に当たるかどうかの判断は非常に難しく、既出と同様の裁判でも「プライバシーの侵害に当たらない」という判決が下されるケースもあります。
プライバシーの侵害については、裁判の場において、個々の事件をその都度判断している状態が続いているのです。
では、私たちの暮らしにおいては、どのようなことがプライバシーの侵害に該当するのでしょうか。
今回はプライバシーの侵害について、出来る限り簡単に説明していきたいと思います。
プライバシーとは
そもそもプライバシーとはどのようなことを指すのでしょうか。
多くの人は秘密にしておきたい私生活に関することや、それにまつわる公開されたくない事柄等があるでしょう。そのように、他人に知られたくないその人固有の秘密を総称してプライバシーと呼んでいます。
なお、プライバシーは、みだりに第三者に公開されない権利を持っています。その権利のことをプライバシー権と呼びます。
プライバシー権と「『宴のあと』事件」
プライバシー権について、より深く知っていただくために、それが初めて認められた「『宴のあと』事件」という裁判例をご紹介します。
「宴のあと」とは、1960年に新潮社から出版された三島由紀夫の小説のことを言います。
同小説は、外交官を経て外務大臣を務め、1955年と1959年の2回に渡って東京都知事選に立候補した有田八郎氏がモデルになっています。
主人公の野口雄賢のモデルになった有田氏は、小説の内容によって、「私生活を公表され、平安な余生を送ろうと一途に念じていた一身上に堪えがたい精神的苦痛を感じた」と主張し、三島由紀夫と新潮社に100万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求めました。
この訴えに対し東京地方裁判所は、1964年9月28日、有田氏に80万円を支払うよう、三島由紀夫と新潮社に命じる判決が下されました。
判決文には「いわゆるプライバシー権は私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利として理解される」という一文がありました。これが、プライバシー権が裁判の場で初めて認められた判例です。
プライバシーの侵害とは
なお、「『宴のあと』事件」では、プライバシーの侵害の法的な救済が与えられる境界を以下のように判示されています。
プライバシーの侵害に対し法的な救済が与えられるためには、公開された内容が
(イ)私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること (ロ)一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立つた場合、公開を欲しないであろうと認められることがらであること、換言すれば一般人の感覚を基準として公開されることによつて心理的な負担、不安を覚えるであろうと認められることがらであること (ハ)一般の人々に未だ知られていないことがらであること 東京地裁昭和39年9月28日 |
上記の(イ)(ロ)(ハ)に「当該私人が不快、不安の念を覚えたことを必要とする」を加えた4項目が、プライバシーの侵害を満たす条件としています。
その4つを要約すると、プライバシーの侵害とは、「当事者が望んでいないにも関わらず、公開していない私生活の情報を暴露され、不快感や不安を抱くこと」と言えるでしょう。
プライバシーの侵害とは具体的にどんなこと?
では、具体的にどんなことがプライバシーの侵害に当たる可能性があるのでしょう。具体例をご紹介します。
【具体例①】勤務先を暴露される
例えば、「〇〇さんは、××に勤めている」という情報を暴露されたとします。それに対し、本人が暴露された事実に何かしらの不快感や不安を抱いた場合は、プライバシーの侵害に該当する可能性があります。
【具体例②】LINEのやりとりをSNSにアップされる
LINEのやりとりをSNSにアップした場合は、プライバシーの侵害に該当する可能性があります。
例えば、第三者には見られたくない秘密のやりとりをSNSにアップされ、公開された本人が不快感や不安を抱いた場合は、プライバシーの侵害に当たるかもしれません。
【具体例③】自宅の場所を本人の許可なく公開
一般的に、自宅の場所は限られた人にしか教えたくないでしょう。
にも関わらず、自宅の場所を知っている人が、本人の許可もなく、第三者に教えてしまった場合、プライバシーの侵害に該当する可能性が考えられます。知らない誰かが訪れるのではないか等の不安を抱く人がいるためです。
【具体例④】本名と学校を許可なしに教える
例えばAさんが、Bさんの本名と通学している学校を、本人の許可なしにCさんに教えたとします。
その場合、Bさんが、本名と通っている学校をCさんに知られてしまったことに不快感や不安を抱いた場合は、プライバシーの侵害に該当する可能性があります。
【具体例⑤】家族に勝手にスマホを見られる
家族にスマホを勝手に見られ不快感を抱く方もいるのではないでしょうか。「親子なんだから隠し事なしだ!」等と主張する家族もいるかもしれません。
しかし、スマホの中には、LINE・メールのやりとり、SNS、お気に入りのサイト、プライベートな写真、クレジットカードの情報等、見られたくない情報もあるでしょう。
家族とはいえ、無許可でスマホを見られている場合は、プライベートの侵害に該当する可能性があるのです。
プライバシーの侵害に該当する可能性がある情報
ここでは、プライバシーの侵害に該当する可能性がある情報をまとめてみました。
以下に列記した情報は、本人の無許可で公開されると不快感や不安を抱かれやすい事柄です。
■氏名
■住所
■出自(でどころ、生まれ)
■電話番号
■職業・職種・勤務先
■年収・借金額
■病気、持病、通院歴
■結婚・離婚歴
■身体的な特徴
■指紋
■家庭内の事情
■メール・LINE・手紙等の内容
■前科・過去の犯罪歴
以上の他にも、本人にとって知られたくない情報が公開された場合はプライバシーの侵害に該当する可能性があります。
警察はプライバシーの侵害をしている人を逮捕出来る?
プライバシーの侵害を受けた場合、通報して警察に対応してもらうことは可能なのでしょうか。
警察は刑法(犯罪・刑罰を規定した法律)に触れることについては逮捕等の対応をします。しかし、プライバシーは刑法で定められた権利ではないため、警察は介入出来ません。
そのため、警察に通報しても解決しない可能性があります。
プライバシーの侵害をされたら弁護士に相談を
では、プライバシーの侵害をされている場合は、どのような解決方法があるのでしょうか。解決するためには、法的な手続が必要になります。法律に関する知識を持っていない方が、 手続をするには限界があります。
ですので、法律に詳しい弁護士に相談をすることをおすすめします。弁護士であれば、法的手続を有利に進めてくれることが期待出来るでしょう。