肖像権侵害って具体的にどういうこと?――カメラ機能が搭載されたスマートフォンとSNSの普及により、本人の許可なく撮影者が写真や動画をツイッターやフェイスブック、ユーチューブにアップロードされるケースが増えています。
その際に、違法になるかどうかが問われるが肖像権です。
肖像権は、法律上の定義がありません。そのため、肖像権侵害に当たるかどうかの判断が難しいのです。
本記事では、肖像権を深堀りしていき、肖像権侵害を明確化していきたいと思います。
肖像権とは
肖像権とは、本人の許可なく顔や身体を、撮影・公表されない権利のことをいいます。
ただ、既述の通り、肖像権は法律上の定義がありません。肖像権は判例によって、確立されてきました。
その根拠は、憲法13条で定められている「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」という、幸福追求論に基づいています。
また、肖像権は「プライバシー権」と「パブリシティ権」の2つの要素があると考えらえています。
プライバシー権
プライバシー権とは、私的な情報をみだりに公開されない権利のことを指します。著名人でない一般の方も、プライバシー権を持っています。
【関連記事】プライバシーの侵害とは?具体的にどんなことを指すのか簡単に解説
パブリシティ権
芸能人やスポーツ選手等の著名人には経済的な利益を生む力があります。このことを俗に顧客吸引力と呼びます。
彼らのような、顧客吸引力を持つ人物の肖像や氏名を独占的に利用出来る権利のことをパブリシティ権といいます。
著名人と一般人
著名人は、プライバシー権とパブリシティ権の2つの要素から肖像権が適用される可能性があります。対して、著名人ではない一般の方は、プライバシー権のみが適用されると考えられています。
肖像権侵害とは
お待たせしました。本題である肖像権侵害について触れさせていただきます。
肖像権侵害とは、本人の許可なく顔や身体等を、撮影・公表する行為のことを指します。
ただ、本人の許可なく顔や身体等を撮影・公表したのみでは、肖像権侵害に当たらないケースもあります。
肖像権侵害は、過去の判例等から、「本人から撮影・公表の許可を得ず、人物の特定が可能な写真・動画を、拡散することが容易な場で公開する」場合に当たる可能性があると考えられます。
分かりやすく、「①本人から撮影・公表の許可を得ず」「②人物の特定が可能な写真・動画」「③拡散することが容易な場で公開する」の3つに分けてご説明させていただきます。
①本人から撮影・公表の許可を得ず
「①本人から撮影・公表の許可を得ず」とは、撮影と公表の両方、もしくは、いずれかの許可を得ていないケースのことを指します。
そう、肖像権を侵害しないためには、撮影と公表を別個で許可を得なければならないのです。
例えば以下の場合は、「①本人から撮影・公表の許可を得ず」に該当するでしょう。
〇無断で写真撮影
〇撮影の許可は取っているが、公表の許可を得ていない
〇他人の下着姿や裸を盗撮
対して、以下の場合は、「①本人から撮影・公表の許可を得ず」に当たらない可能性があります。
×撮影者が、被写体本人から撮影と公表の許可を得ている
×観光地やイベント会場等、カメラ等で撮られることが予測される場所での撮影
×記者会見(黙示的に撮影・公表を承諾したと見なされるため)
×オリンピック等のスポーツ競技での撮影(黙示的に撮影・公表を承諾したと見なされるため)
②人物の特定が可能な写真・動画
肖像権が保護しているのは、自分の容姿を勝手に掲載されない権利です。つまり、人物の特定が出来る写真・動画に関しては、肖像権侵害に触れる可能性があります。
具体的に以下のような写真・動画が、「②人物の特定が可能な写真・動画」に該当する可能性があります。
〇被写体の容貌がはっきりと確認出来る
〇被写体がメインとなって撮影されている
対して、下記のような写真・動画は、「②人物の特定が可能な写真・動画」に該当しない可能性が考えられます。
×ぽんやりと映っており、人物の特定が難しい
×小さく映り込んでおり、人物の特定が難しい
×顔にモザイク加工が施されている
③拡散することが容易な場で公開する
肖像権は、自分が意図しない人にまで写真・動画が出回らないための権利を保護しています。そのため、拡散することが容易な場で公開すると、肖像権侵害に触れる可能性が考えられます。
具体的に以下の場合に、「③拡散することが容易な場で公開する」に該当する可能性があります。
〇SNSでの投稿
対して、以下のような場合は、「③拡散することが容易な場で公開する」に該当しないと考えられます。
×メール等で友人間のみで共有
以上の①②③を全て満たした場合に限り、肖像権侵害が該当する可能性があると考えられます。
肖像権侵害に当たる事例・当たらない事例
では、具体的にどのようなケースが肖像権侵害に該当するのでしょうか。その事例を紹介していきたいと思います。
【事例1】Aが無断でBを撮りツイッターに掲載
Aが無断でBを撮ったので、「①本人から撮影・公表の許可を得ず」「②人物の特定が可能な写真・動画」に該当します。また、写真をツイッターに掲載したため、「③拡散することが容易な場で公開する」に当たるでしょう。
そのため、この事例は肖像権侵害に当たる可能性があります。
【事例2】マッチングサイトで他人の顔写真を勝手に利用
他人の顔写真を勝手に利用したため、「①本人から撮影・公表の許可を得ず」「②人物の特定が可能な写真・動画」に該当します。また、マッチングサイトで利用したため、「③拡散することが容易な場で公開する」に当たる可能性が考えられます。
そのため、肖像権侵害に該当する可能性は否定出来ません。
【事例3】芸能人を隠し撮り
隠し撮りをしたので、「①本人から撮影・公表の許可を得ず」「②人物の特定が可能な写真・動画」に該当するでしょう。しかし、隠し撮りをしたのみで、SNSに投稿する等の公開はしていないため、「③拡散することが容易な場で公開する」には該当しません。
そのため、肖像権侵害には該当しない可能性が考えられます。
【事例4】撮影の許可を得た上で芸能人と記念写真を撮りインスタグラムに投稿
このケースで許可を得たのは、撮影のみです。公表については許可を得ていません。にも関わらず、インスタグラムに投稿をしたので、「①本人から撮影・公表の許可を得ず」「③拡散することが容易な場で公開する」が該当します。
また、記念写真なので「②人物の特定が可能な写真・動画」も該当するでしょう。
そのため、肖像権侵害に当たる可能性が考えられます。
損害賠償額はケースによって異なる
肖像権を侵害した場合、どの程度の損害賠償額が生じるのでしょうか。
それについては、ケースによって異なります。過去の判例では、俳優が写真をばらまかれたケースで20万円、作家の妻が盗撮された写真が公開されたケースでは110万円の損害賠償額が発生しています。
後者は、撮られる危険性を認識できない密室に近い場所で撮影されたため、損害賠償額が増えています。
警察に通報しても解決しない
肖像権侵害等、何か困ったことがあると、まず頼りにするのが警察ではないでしょうか。警察は、民事不介入のため、犯罪と関係のない個人間の紛争には立ち入りません。
肖像権侵害は、個人間の紛争に分類されるため、警察に通報しても、解決には至らない可能性が考えられます。
肖像権侵害を受けた場合の対処法
では、肖像権侵害の被害者になった場合は、どのような対処を採ればよいのでしょうか。以下の方法が考えられます。
【対処法①】削除依頼
まずは、公表されたサイトの運営者に削除依頼をしましょう。サイトでは独自に削除基準を設けているケースが多いです。その基準を満たせば、削除してくれる可能性があります。
【対処法②】弁護士に相談
昨今は、インターネットネット上のトラブル解決を得意分野とする弁護士が頭角を現しています。ですので、インターネット上のトラブルに強い弁護士に相談をすることも一手です。弁護士に相談をすれば、肖像権侵害に対し、的確に応じてくれることが期待されます。