誹謗中傷の定義とは:法律の観点から見ると名誉毀損が大きく関わっている

誹謗中傷の定義とは:法律の観点から見ると名誉毀損が大きく関わっている

 「テラスハウスから出ていけ」「気持ち悪い、消えろ」――。見ず知らずの人から苛烈な言葉を浴びて、22歳という若さで自らの人生に終止符を打った、テラスハウス出演者で女子プロレスラーの木村花さん。

 “みんなが言っているから”と軽い気持ちで書き込んだ言葉が積み重なって起きた悲劇。「もしかしたら、自分も悲劇を引き起こした加担者なのではないか」と自戒の念に駆られた人もいるのではないでしょうか。2度と同じ悲劇を起こさないよう、今、誹謗中傷に対してはセンシティブになっています。

 ただ、それに過剰に反応するあまり、ことあるごとに「それは誹謗中傷だ!」といったように、誹謗中傷の本来の意味を無視した言葉が投げられている感が否めません。

 今後は、本来の誹謗中傷を理解して、正しくネットを利用するべきかもしれません。
 今一度、誹謗中傷の定義について考えていきましょう。

 

誹謗中傷の意味

 辞書で広く知られている広辞苑で、誹謗中傷の意味を調べてみると『根拠のない悪口を言い相手を傷つけること』(『https://sakura-paris.org/dict/%E5%BA%83%E8%BE%9E%E8%8B%91/prefix/%E8%AA%B9%E8%AC%97%E4%B8%AD%E5%82%B7』)と記載されています。

 このように辞書に載っていますが、実は誹謗中傷は法律で規定がないため、定義は存在しません。

 

誹謗中傷と名誉毀損

 では、誹謗中傷の定義についてどのように考えればよいのでしょうか。
 誹謗中傷自体についての規定はないものの、その結果として引き起こされる権利侵害が罪に問われます。その代表格に上げられるのが名誉毀損です

 ですので、「誹謗中傷の定義」=「名誉毀損が成立する条件」と考えるのがベターでしょう。

 

名誉毀損が成立する条件

 ここからは名誉毀損が成立する条件を見ていきます。名誉毀損は、刑法第230条1項で以下のように定められています。

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

 上記のうち、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」という部分が、名誉毀損にが成立条件に当たります。

 さらにわかりやすくするために「公然」「事実を摘示」「人の名誉を毀損した」の3つに分解して、名誉毀損が成立する条件を説明していきたいと思います。

【条件①】公然

 公然とは、不特定または多数の人に伝達する可能性がある場のことを指します。例えば、以下が公然に該当します。

・人が多数集まる場所での発言(公共施設、学校の教室)
・誰もが目にする場所での広告案内(看板設置、チラシ配布)
・ネット上の書き込み(掲示板、SNS、ブログ)

 上記のような場で多くの人に伝達しなかったとしても、不特定または多数の人に伝達する可能性があるので公然に当たります。

【条件②】事実を摘示

 「事実を摘示」とは、具体的な事実を指摘することを指します。ただ、法律上の”事実”は真実と同義ではありません。法律上の”事実”とは、「具体的な事柄」のことを指します。そのため、真実か否かは問いません。根も葉もない噂も”事実”に含まれるのです。

【条件③】人の名誉を毀損した

 ここでいう「人の名誉を毀損した」は、実際に他人の社会的評価を下げるだけでなく、その可能性がある状態も含まれます。

 また、「人の名誉を毀損した」の”人”は、自分以外の人を意味します。親や子供、配偶者等の親族も対象です。会社や法人等の団体も”人”に含まれます。

 以上の条件①~③を全て満たしている場合に限り、名誉毀損は成立します。

 

名誉毀損が成立するネット上の書き込み例

 それでは、具体的にどのようなケースだと名誉毀損が成立するのでしょうか。ネット上の書き込みを例に見ていきましょう。

【例①】グルメ口コミサイトの書き込み

 グルメ口コミサイトに、以下2つの口コミが書き込まれているとします。

A「麺屋○○屋のラーメンは、かなりマズかった。もう2度と行かない。」
B「麺屋○○屋のラーメンは、店主の湯切りが下手くそで、かなりマズかった。もう2度と行かない。」

 口コミは、「人それぞれの感想である」「店選び等をする際の貴重な情報源になる」の2つが前提と考えられています。「かなりマズかった」「2度と行かない」は、あくまでも個人の感想と見なされるのです。

 そのため、Aは名誉毀損の「①公然」「②事実を摘示」は該当する可能性はありますが、「③人の名誉を毀損した」には当たらないと考えられます。

 一方で、Bの場合は名誉毀損に該当する可能性があります。というのも、「店主の湯切りが下手くそ」という具体的な感想がお店の評価を下げやすくするためです。そのため、Bは「①公然」「②事実を摘示」だけでなく、「③人の名誉を毀損した」に当たると考えられるのです。

ツイッターのツイート

 ツイッターに以下2つのツイートがあるとします。

C「残業ばっかりだ!早く帰らせろ!このブラック企業!」
D「残業ばっかりだ!早く帰らせろ!このクソ企業!」

 CとDの両方が言っている、「残業ばっかりだ!」「早く帰らせろ!」は、例①の「かなりマズかった」「2度と行かない」と同様、個人的感想に当たるため問題ありません。しかし、Cの「このブラック企業!」が名誉毀損に当たるおそれがあるのです。

 というのも、「ブラック企業」という単語は、法律の規定を超えた違法で劣悪な労働環境を労働者に強いるという、社会的評価を下げるイメージのある言葉として、近年使用されています。

 つまり、Cは、「①公然」「②事実を摘示」だけでなく「③人の名誉を毀損した」を満たす可能性があるのです。

 対して、Dの「クソ企業!」はあくまでも個人の感想であると見なされるため、名誉毀損に該当しない可能性が考えられます。

SNSに犯人探しの書き込み

 SNSでの犯人探しの書き込みで名誉毀損は成立するのかどうかを説明するまえに、まず警察による指名手配について触れる必要があります。

 警察による指名手配犯のポスター掲示は一見すると、名誉毀損の成立条件である「①公然」「②事実を摘示」だけでなく「③人の名誉を毀損した」を満たすため、違法に見えます。
 しかし、警察による指名手配犯のポスター掲示は、防犯等を目的とした公益性(周囲の得のためにやること)が高いため、名誉毀損に当たらないと考えられています。

 では、SNSでの犯人探しの書き込みは名誉毀損が成立するのでしょうか。例えば、Eさんが犯人の顔が分かる画像とともに、

「バイクを盗まれました。防犯カメラに映っているこの人が犯人です。見つけたら連絡ください。」

と、書き込まれていたとします。
 Eさんのような民間の被害者が犯人探しを行うと、「自分の被害を回復したい」「相手をこらしめたい」等を目的とした私益性(個人的な利益)が高いと見なされる可能性があります。

 そのため、Eさんには「③人の名誉を毀損した」が該当すると見なされ、名誉毀損が成立する可能性が考えられます。

 

終わりに

 誹謗中傷の定義を考える際は、誹謗中傷によって名誉毀損が引き起こされるかどうかを見ていきましょう。
 その際は、名誉毀損が成立する3つの条件をに該当するかどうかが満たしているかどうかがポイントです。

 もし、誹謗中傷を受けたと感じた方は、この名誉毀損の3つの条件に該当するかどうかを判断してみましょう。