ツイッターの匿名アカウントで誹謗中傷する人を特定する手順と特定事例

ツイッターの匿名アカウントで誹謗中傷する人を特定する手順と特定事例

 ツイッターで誹謗中傷などを受けた方の中には、匿名アカウントを特定して慰謝料請求等を行いたいという方は少なくないのではないでしょうか。

 本記事では、ツイッターの匿名アカウントで誹謗中傷している人を特定する手順と、特定された事例についてお伝えします。

 

誹謗中傷している人を特定する手順

 ツイッターに限らず、インターネット通信を行う際は、誰もがプロバイダ(インターネットに接続するために必要なサーバーや回線を提供する会社)を経由します。そのプロバイダは、利用者の名前や住所、電話番号等の個人情報を保持しています。

 ツイッターで誹謗中傷している加害者を特定するためには、その人が利用したプロバイダを突き止める必要があります。

 ですが、プロバイダを特定するためには、加害者が利用したIPアドレス(インターネット上の住所)とタイムスタンプ(ツイートした日時に関する情報)の情報を入手しなければなりません。

 IPアドレス・タイムスタンプの情報を保存しているのはツイッターです。

 そのため、ツイッターで誹謗中傷している加害者を特定するためには、以下の手順を踏む必要があります。

①ツイッター社に発信者情報開示請求(投稿者に関する情報の開示を求めること)を行う
②発信者の情報を削除されないよう仮処分を行う
③プロバイダに発信者情報開示請求を行う

 1つずつ見ていきましょう。

【手順】①ツイッター社に発信者情報開示請求を行う

 はじめにツイッター社に発信者情報開示請求を行います。
 ツイッター社への発信者情報開示請求では、加害者のIPアドレスとタイムスタンプの情報を求めます。

 ツイッター社は、名誉毀損プライバシーの侵害等に当たる投稿といったような情報開示する必要性があると判断した場合、開示に応じます。

 しかし、多くは開示に応じません。ツイッター社に情報開示に応じさせるためには、裁判所で仮処分の手続を行わなければなりません。

【手順】②発信者の情報を削除されないよう仮処分を行う

 プロバイダは、一般的に投稿が行われてから3~6ヶ月が経過した発信者の関する情報を消去します。

 ですので、加害者が利用しているプロバイダに、発信者の情報を削除しないで保存しておくように、裁判所を通して仮処分(裁判をせずに勝訴時と同じ状態を確保する手続)を行います。

【手順】③プロバイダに発信者情報開示請求を行う

 次いで、発信者の氏名や住所、電話番号等の個人情報を保持しているプロバイダに対して、発信者情報開示請求を行います。

 プロバイダは情報の開示をする際、発信者から許可をもらわなければなりません。その際、加害者には「発信者情報開示請求に係る意見照会書」という書面が届きます。その書面を通して加害者に「あなたの個人情報を相手に開示してよいかどうか」についての許可を取ります。もちろん、発信者は特定されたくないため、開示を許可しません。

 ですので、プロバイダに発信者情報開示請求を行っても、拒否されるケースが多いです。

 拒否された場合は、プロバイダの本社や営業所の所在地を管轄する地方裁判所に発信者情報開示請求訴訟を提起する必要があります。

 

加害者を特定するまでにかかる期間

 以上の手順を踏んでようやく発信者を特定することが出来ます。ツイッターで誹謗中傷をしている人を特定するまでには半年~1年、平均だと8~9ヶ月の期間を要します。

 但し、2020年現在、発信者情報開示請求の簡素化に向けてプロバイダ責任制限法の改正が議論されています。
もし、改正が実現されれば、加害者の特定にかかる期間が、今より短期間になるでしょう。

 

発信者情報開示請求の注意点

 発信者情報開示請求を行う際は、以下のような注意点に留意しましょう。

【注意①】情報の保存期間を過ぎると特定が困難

 ツイッターが、発信者の情報を保存している期間は最大18ヶ月です。また削除されたアカウントの復活可能期間は30日です。
 これらの保存期間を過ぎてしまうと特定が困難になります。

【注意②】削除されたアカウントも特定可能

 誹謗中傷しているアカウントが削除された場合でも、ツイッター社とプロバイダの発信者情報の保存期間内であれば、特定は可能です。
 
 削除されたアカウントの詳細が分かるスクリーンショットやプリントアウト、ツイートのURL、ツイッター画像化保存サービスの「ツイッター魚拓」等があれば、発信者情報開示請求は可能です。

 

誹謗中傷している人に損害賠償請求

 特定が出来たら損害賠償請求を行うことが出来ます。
 裁判所に、名誉毀損等による損害賠償請求を提起することで、慰謝料を求めることが出来ます。
 訴訟(裁判所に訴えて法律的な確定を求めること)を起こすには法的知識が必要になるため、一般的に弁護士に依頼します。ともなれば、弁護士費用が必要になるため、ハードルが高いのがネックです。

 そのため、まずは加害者に直接交渉して示談金を請求する形で解決を求めることをオススメします。某法律事務所によると、直接交渉で7割は解決すると言われています。

 直接交渉で支払いに応じない場合に、損害賠償請求訴訟を起こすのがベターと考えられます。

損害賠償請求訴訟にかかる弁護士費用

 損害賠償請求訴訟には、どの程度の弁護士費用がかかるのでしょうか。
 20~100万円程度の弁護士費用がかかります。また、慰謝料は10~100万円の範囲で収まるケースが多いです。

 そのため、慰謝料を回収したとしても、その多くが弁護士費用で相殺される可能性があります。

 

損害賠償請求が認められた裁判例

 ここからは、ツイッターの誹謗中傷で損害賠償請求が認められた裁判例をご紹介します。

【裁判例①】漫画家に対しての誹謗中傷で慰謝料15万円

漫画家が、原告に依頼されて描いたある人物の似顔絵を意図しない目的で引用されて「(原告)さんにも○害予告されましたし、・・・」(以下省略)と事実無根の誹謗中傷を受けたため、著作権侵害と名誉毀損で加害者を訴えた事例です。

裁判所は加害者に対し、慰謝料30万円(うち名誉毀損は15万円)と訴訟費用20万円の合計50万円の支払い命令を下しました。

(東京地方裁判所 平成25年7月16日)

引用元:https://bengoshihoken-mikata.jp/archives/11232

【裁判例②】サイエンスライターに対しての誹謗中傷で慰謝料200万円

2017年7月頃から2018年3月頃にかけて継続的にツイッターで誹謗中傷を受け続けた被害者(サイエンスライター)が加害者を特定して慰謝料請求した事例です。

加害者は被害者に対し「淫売」「夫は強姦魔」などと悪質な誹謗中傷の投稿を継続していました。

被害者が裁判を起こしたところ、被害者は無視して対応しなかったため原告の請求が全面的に認容され、慰謝料200万円、弁護士費用20万円、調査費用43万8000円の合計263万8000円の支払い命令が下されました。

※実際にかかった弁護士費用は100万円程度

謝罪文の交付命令も出ています。

(さいたま地方裁判所 令和元年7月17日)

引用元:https://bengoshihoken-mikata.jp/archives/11232

【裁判例③】大学教授に対しての名誉毀損で慰謝料30万円

大学の講義で、原告の教授は「阪神タイガースがリーグ優勝した場合は、恩赦を発令する。また日本シリーズを制覇した場合、特別恩赦を発令し、全員合格とする。」と書かれたパワーポイントを写しつつ、「かつては、阪神タイガースが優勝した場合、全員合格とするという教授もいたが、現在はそんなことはない。」と口頭で説明していました。

しかし、ある学生がそのパワーポイントと教授が写ったその様子を撮影し、ツイッター上に、「阪神が優勝したら無条件で単位くれるらしい」というコメントとともに投稿しました。この投稿はネット上で話題になり、ツイッター上のみならず、各種まとめサイトなどにも拡散されました。

一度は話し合いの上和解したそうですが、その後学生は約束したはずの行動をとらず、連絡もつかなくなったため原告の教授が提訴しました。

原告の慰謝料200万円の請求に対し、30万円の慰謝料と遅延損害金の支払いが命じられました。

(大阪地方裁判所 平成28年11月30日)

引用元:https://bengoshihoken-mikata.jp/archives/11232

 

警察への通報は加害者の特定に繋がる?

 誹謗中傷で困っている方の中には、警察に通報をして特定してもらおうと考える人もいるでしょう。しかし、誹謗中傷の内容によって警察の対応は異なります。
 
 それは、警察が民事不介入(個人同士の争いには介入しない)の原則に従っており、刑事事件に発展しない、あるいは発展しそうにない限り介入しないためです。

・刑事事件とは

傷害や窃盗、痴漢等、犯罪行為をしたと疑われる者について、捜査を行い刑罰を科すかどうかの必要性を問う事件のことをいいます。

 では、警察はどのような誹謗中傷の場合、加害者の特定に向けて動くのでしょうか。
 誹謗中傷と一口に言っても、その内容は様々です。以下のようなツイート内容は刑事事件になる可能性があるため、警察に通報をすれば特定を行ってくれる可能性があります。

【警察①】脅迫

 「刺し殺すぞ!」「お前の家を放火するからな!」等の脅迫ツイートは、暴行や傷害事件、最悪の場合には殺人事件に繋がる可能性があります。それらは刑事事件に当たるため、警察が特定を急いでくれる可能性があります。

【関連記事】脅迫罪とは?簡単に分かるように解説

【警察②】ストーカー

 「○○ちゃんのことをいつも考えているよ」「○○の家の前にいるよ。まだ帰ってきてないんだね」といったように、監視されているかのようなツイートが繰り返される場合は、ストーカー行為に当たる可能性があります。ストーカー行為を行うと、ストーカー規制法違反で刑事事件に当たるため、警察が特定に向けて動いてくれる可能性があります。

【関連記事】どこからがネットストーカー?法律から紐解く

【警察③】リベンジポルノ

 リベンジポルノとは、元交際相手や元配偶者が、交際・婚姻中に撮影した性的な画像・動画を公開することを指します。
リベンジポルノは、公表罪や公表目的提供罪に当たり、刑事事件の範疇になります。そのため、リベンジポルノで困っている方は、警察に通報すれば特定してくれる可能性があります。

【関連記事】リベンジポルノの削除方法:警察は動いてくれない可能性がある

【警察④】営業妨害

 「店を続けるなら爆破するぞ!」「バスの乗客を全員殺す」等の業務を妨害するようなツイートは、業務妨害罪に当たる可能性があります。そのため、警察は特定に向けて動いてくれる可能性があります。

【関連記事】業務妨害罪とは:条文と構成要件から紐解いて解説

【警察⑤】悪質な名誉毀損

 しつこかったり、身の危険を感じたりするような悪質な名誉毀損のツイートは、重大な事件に発展する可能性があります。そのため、悪質な名誉毀損ツイートに対しては、警察は特定に向けて動いてくれる可能性があります。

 

警察に特定された逮捕事例

 実際、以上のようなツイートを行い、警察に特定され、逮捕された事例があります。例えば以下のような事件が挙げられます。

【逮捕事例①】芸能人に「殺す」等とツイート

 2017年2月、声優でタレントの水樹奈々さんに「会いたい」等とメッセージを送ったところ、無視されたことに憤慨し、「殺す」等とツイートしたアカウントがありました。そのツイートを投稿した男性は警察に特定され、威力業務妨害罪で逮捕されました。

【逮捕事例②】監視していることが分かるツイート

 2017年1月、女子高生をつきまとい、監視していることが分かるツイートを繰り返す匿名アカウントがありました。警察によってそのアカウントを使用しているのが医師であることが特定され、ストーカー規制法違反で逮捕されました。

【逮捕事例③】わいせつ画像をツイート

 2014年11月、女児のわいせつ画像をツイートした男性が、児童ポルノ禁止法違反で逮捕されました。また、そのツイートをリツイートした男子中学生も逮捕されました。

【逮捕事例④】「動物園からライオンが逃げた」とツイート

 2016年4月熊本地震が発生した直後、「動物園からライオンが逃げた」というツイートが発見され、周囲の混乱を招きました。そのツイートをした会社員が偽計業務妨害罪で逮捕されました。