発信者情報開示請求をするための「条件」「流れ」「期間」を解説

発信者情報開示請求をするための「条件」「流れ」「期間」を解説

 インターネットでは匿名で情報を発信することが可能なため、誹謗中傷の書き込みをする人も少なくありません。そんなインターネット上の法整備をするために制定されたのが発信者情報開示請求です。
 発信者情報開示請求とは、インターネット上で他社を誹謗中傷するような表現を行った者の情報(住所・氏名・登録された電話番号等)の開示させる制度のことをいいます。

 具体的には以下の情報が開示されます。

・氏名
・住所
・メールアドレス
・発信者のIPアドレス(インターネット上の住所)
・IPアドレスと組み合わせられたポート番号
・携帯端末のインターネット接続サービスサービス利用者識別番号
・SIMカード識別番号
・タイムスタンプ(情報を発信した時間)
・電話番号(追加予定、現在は不可)

 今回は、以上の情報を開示させる発信者情報開示請求の流れについてお伝えいたします。

 

発信者情報開示請求をするための条件

 発信者情報開示請求をするためには、まず以下の条件を満たしていなければなりません。

【条件①】違法行為に該当するかどうか

 誹謗中傷の書き込みが違法行為に該当していない場合は、発信者情報開示請求をすることが不可能です。ですので、誹謗中傷の書き込みが違法行為に該当するかどうかを確認しましょう。
 誹謗中傷は、下記の違法行為に該当する可能性があります。

違法行為定義
名誉毀損罪不特定多数の状況下で、他人の社会的評価を下げる行為・○○というお店はヤクザが経営している

・この店は腐った食材を客に平気で出してくる

侮辱罪具体的な事実を避け、おおやけの場で社会的評価を下げる行為・○○というお店は接客が酷い

・全従業員が頭おかしい

プライバシーの侵害公共の場で、公開を望んでいない個人情報や私生活の情報を暴露する行為・〇〇(フルネーム)という店員に騙された

・このマンションには〇〇(フルネーム)が住んでいる

信用毀損罪故意に嘘の噂を流したり人を騙したりして、他者の信頼を傷つける行為「〇〇というお店のラーメンにハエが入っていた」という事実無根の口コミによって、客足が少なくなった
脅迫罪他人を脅かす目的で危害を与える行為○月○日までに店を撤退しなければ放火してやる
業務妨害罪嘘の情報を流したり人を騙したりして、他人の業務を妨害する行為○○ラーメン店はスープも麺もまずい

違法行為の証拠を残す

 誹謗中傷の書き込みが違法行為に当たると考えられる場合は、必ず証拠を残してください。違法行為をした証拠がないと、発信者情報開示請求が認められない可能性があるためです。
 次の2つが有効な証拠になります。

・誹謗中傷の書き込みがあるページのURL
・誹謗中傷の書き込みをプリントアウトした書面あるいはスクリーンショットした画像等

【条件②】誹謗中傷の書き込みがされて3ヶ月以内かどうか

 次いで、問題の投稿がされた日にちが経っていないかどうかを確認しましょう。
 というのも、投稿から3ヶ月程度が経過すると、発信者を特定する情報が消去されている可能性があるためです。
 その情報が残っていないと、発信者の特定は困難になります。

 

発信者情報開示請求の流れ

 以上の2つの条件を満たしていたら、発信者情報開示請求の手続に進んでいきましょう。発信者情報開示請求は以下の流れで行います。

①サイト運営者に発信者情報開示請求書を送る
②裁判所に発信者情報開示仮処分命令申立を行う
③投稿者が利用したインターネットプロバイダ会社を特定する
④裁判所に発信者情報消去仮処分命令申立を行う
⑤裁判所に発信者情報開示請求訴訟を起こす

 それでは①から⑤をひとつずつ見ていきましょう。

【流れ①】サイト運営者に発信者情報開示請求書を送る

 まず、投稿者が利用したIPアドレスとタイムスタンプの情報開示を求めて、サイト運営者に発信者情報開示請求書を送ります。
 発信者情報開示請求書を送付する際は、手続の遅れを防止するために、回答期限を設けましょう。発送日から10日程度に期限を設けることをオススメします。

 しかし、発信者情報開示請求書を送っても、IPアドレスとタイムスタンプの情報が開示されるケースは少ないです。サイト運営者には、投稿者の秘密を守る義務があるためです。

 多くのサイト運営者は、発信者情報開示請求が届いても、裁判所の命令がなければ開示が出来ない、というスタンスを採るのです。

【流れ②】裁判所に発信者情報開示仮処分命令申立を行う

 そこで、発信者情報開示請求書の発送とほぼ並行して、裁判所に発信者情報開示仮処分申立を起こします。
 発信者情報開示仮処分申立とは、サイト運営者がIPアドレスとタイムスタンプの情報開示に応じるよう、裁判所に求める手続のことをいいます。

 裁判所は、誹謗中傷の書き込みが違法行為に該当するかどうかを判断します。その判断には1ヶ月程度かかります。違法行為に該当するという判断になれば、裁判所はサイト運営者に、IPアドレスとタイムスタンプの情報を開示するよう命令を下します。

【流れ③】投稿者が利用したインターネットプロバイダ会社を特定する

 次いで、開示されたIPアドレスとタイムスタンプの情報を基に、投稿者が投稿時に利用したインターネットプロバイダ会社を特定していきます。
 現在、「ドメイン/IPアドレスサーチ【whois情報検索】」でIPアドレスとタイムスタンプの情報を入力すれば、インターネットプロバイダ会社を特定することが出来ます。

【流れ④】裁判所に発信者情報消去仮処分命令申立を行う

 次いで、裁判所に発信者情報消去仮処分命令申立を行います。
 発信者情報消去仮処分命令申立は、特定したインターネットプロバイダ会社に、投稿者特定に必要な記録を消去しないよう、裁判所に命令を求めることを目的とする手続です。

 インターネットプロバイダ会社は、投稿者の情報を3ヶ月程度経過すると消去します。それを防ぐために、発信者情報消去仮処分命令申立を行うのです。

 発信者情報消去仮処分命令申立を行ってから約2週間後に、裁判所からインターネットプロバイダ会社に対し、投稿者の特定に必要な情報の消去を禁止する命令が下されます。
 インターネットプロバイダ会社はその命令に従わなければなりません。

【流れ⑤】裁判所に発信者情報開示請求訴訟を起こす

 最後にインターネットプロバイダ会社を相手取って裁判を起こし、投稿者の契約情報(氏名・住所)を開示させる手続きを行います。この手続のことを発信者情報開示請求訴訟と呼びます。

 発信者情報開示請求訴訟は、一般的に6~7ヶ月の期間を要します。この間に裁判所は、問題のある投稿に違法性があるかどうかを判断します。違法性があると判断を下せば、インターネットプロバイダ会社から訴訟を起こした者に投稿者の契約情報(氏名・住所)が開示されます。

 

発信者情報開示請求に必要な期間

 発信者情報開示請求の流れをお伝えしましたが、誹謗中傷をした者を特定するためにはどれくらいの期間を要するのでしょうか。

 トータルで8~9ヶ月程度の期間が必要になります。

 発信者情報開示請求と一口に言っても、多くの手続を必要とするため長い期間を要するのです。

 

効率よく手続を進めることがカギ

 既述の通り、投稿から3ヶ月ほど経過すると、投稿者の特定に必要な情報が自動的に消去されてしまいます。
 そのため、3ヶ月以内に「プロバイダに対して、記録の消去を禁止する裁判所の命令を出してもらう」ところまでを終わらせることが必要です。

 迅速な対応が、発信者情報開示請求を成功に導く大きなカギなのです。

 

発信者情報開示請求の制度改正検討

 SNSで誹謗中傷を受けていたプロレスラーの木村花さんが5月23日に死去したことを受け、政府は、インターネット上の発信者の特定を容易にし、悪意のある投稿を抑止するため制度改正を検討する意向を示しました。また、開示出来る情報に電話番号も加える方針を明らかにしています。

 これまでの説明をご覧になった方はお分かりいただけたと思います。発信者情報開示請求の手続は複雑でハードルが高いです。「違法行為に当たるかどうかが明確ではない」との理由から情報開示が拒否されるケースが大半で、被害者が負担する裁判費用が大きい点も課題になっています。

 政府は、「ネットの誹謗中傷を抑止し、被害救済を図るには発信者の情報開示の手続きが適切に運用されることが必要だ」と指摘していました。

 これを機に、発信者情報開示請求に手続が簡略化されることが期待されます。