「知る権利」との対立も!?最高裁が認めなかった「忘れられる権利」とは?

  • 2018.12.25
「知る権利」との対立も!?最高裁が認めなかった「忘れられる権利」とは?

周囲に知られたくない情報が、インターネット検索で出てきてしまう…。
このような理由で、ネット上の情報を削除したいと願う人が存在します。

今回は、ネット上に残る自分の過去を削除できる権利「忘れる権利」についてお伝えします。

忘れられる権利とは?

「忘れられる権利」とは、個人が、個人情報を収集した企業などにその削除を求めることができる権利です。
つまり、一言で表すと、「個人がネット上の情報を削除できる権利」です。削除を求める相手は、情報をネット上に掲載する企業です。(米国・グーグル社)

忘れられる権利の発祥はEU

忘れられる権利は、EU(欧州連合)発祥の権利とされています。

フランス人女性が2014年、過去に撮影したヌード写真が名前とともにネット上に掲載され続けているため、グーグルに削除を求める裁判を起こしました。
判決で女性は勝訴し、忘れる権利が認められる形でグーグルへの情報削除の命令が下されました。

この頃から、ネット上の情報を削除できる「忘れられる権利」という概念が確立するようになったとされています。

日本でも「忘れられる権利」に言及した裁判が行われた

日本においてもネット上に掲載される情報の削除を求める裁判は起こされています。その中で、さいたま地方裁判所が「忘れる権利」に言及し、原告(削除を求めた側)が勝訴する判決が下しました。

しかし、その後の東京高等裁判所で男性は、原告の男性が求める削除を認めず、さらには最高裁でも男性の訴えは退かれています。

以下、時系列に沿って裁判所の判決をご紹介します。

■裁判の概要

過去に児童買春・ポルノ禁止法違反罪によって50万円の罰金刑に処された男性が、事件から3年経過してもネット上に実名、住所が掲載されていることについて、グーグルを相手に削除を求める仮処分を、さいたま地方裁判所に申し立てました。

さいたま地裁(2015年)

さいたま地裁は2015年、犯罪が行われてからある程度の期間が経過すると、社会から「忘れられる権利」があると判断。男性の訴えを認め、グーグルに検索結果から男性の逮捕歴を削除するように命令しました。

東京高等裁判所(2016年)

さいたま地方裁判所の判決を不服としたグーグルは控訴(判決に納得いかないことを上級裁判所へ訴える)しました。

控訴を受けた東京高等裁判所は2016年、さいたま地裁の判決を棄却(取り下げること)し、男性が求める情報の削除を認めませんでした。

その理由として、「(男性が)有罪となってから5年以内は、まだ公共性が失われていない」としています。つまり、5年以内では、男性の犯した罪は社会に影響を持つと判断されました。

男性が逮捕された罪が「児童買春・ポルノ禁止法」であったことも関係しています。
この犯罪は、少年少女の成長に大きく関わる罪です。つまり、社会に大きく影響する事件であることも考慮されたと考えられます。

そして、高等裁判所は、既に日本の法律でネット上の削除を求められる法律が制定されているため、「忘れる権利」が確立するのは難しいと判断しています。

最高裁判所(2017年)

この裁判は最高裁判所まで続き、高等裁判所も決定を支持する判決を下しています。
つまり、日本の司法のトップ機関である最高裁判所が、男性が求める削除を認めないと判断しました。

また、最高裁判所が「忘れる権利」に言及することがありませんでした。

日本での「忘れられる権利」の扱い

前項では、日本の裁判所は「忘れられる権利」は認められなかったとお伝えしました。

日本の法律では、ネット上の情報を削除したいと願っても不可能なのか…?

そんなことはありません!
前項でお伝えした裁判で、日本の裁判所が「忘れる権利」を認めなかった理由は、すでに日本の法律ではネット上の削除を求めることができる仕組みが確立しているため、あえてそのような概念は必要ないと言えます。

日本では、どのような法律に基づいて、ネット上の情報を削除することができるのでしょうか?
以下、一部をお伝えします。

■名誉毀損

名誉毀損とは、不特定多数の人が知り得る状況下で他人(個人・企業)の社会的評価を下げるような言動を指します。

例えばネット上のトラブルの場合、匿名掲示板に「○○会社の営業部長・Aさんと部下のB子さんは不倫をしている」と書かれ、さらにはまとめサイトに転載されたと仮定します。
「不倫」は、AさんとB子さんの社会的な評価を下げるものと考えられ、名誉毀損に該当する可能性があります。

そして、名誉毀損を理由として、ネット検索で出てくる「AさんとB子さんの不倫」に関する情報を削除するように訴えることも考えられます。

■プライバシー権

プライバシー権とは、私生活上の事柄を他人に勝手に公表されない権利のことです。つまり、プライバシーの侵害をさせない権利を言います。

例えば、リベンジポルノはプライバシー権の侵害に当たります。
他人が勝手に自分の裸の写真をネット上に掲載した場合、プライバシーの権利を理由に削除を求める訴えを行うことが考えられます。

日本にとって「忘れられる権利」は必要なのか?

日本の裁判所は、「忘れる権利」という概念で判決を下すのではなく、「名誉毀損」などの名誉権、プライバシー権などを保護する観点で判断する姿勢をとっている捉えることができます。

忘れられる権利とは逆!『知る権利』とは?

ここまでは「忘れる権利」についてお伝えしましたが、その逆の位置づけとなる「知る権利」についてもご紹介します。

知る権利とは、人々が政治や行政、社会の情勢を「知る」ことを保障した権利です。
要するに、人々は、マスコミが日々報じるニュースなどを通じて、国内で起こっている政治の動き、事件・事故のニュースを、何からも禁止されることなく知ることができるということです。

この権利を主張すると、前述した男性が過去の逮捕歴の削除を求めた裁判は、社会に与えた影響が大きいため、時間が経過しても人々はその事件ついて「知る権利」があると言えます。
実際に、判決で裁判所は、5年が経過しても人々は、この事件が発生したことをまだ知る必要がるという旨の判断をしています。

最後に… 『忘れる権利』VS『知る権利』

「忘れる権利」は、当事者の立場でネットの情報を削除できる権利で、人々がその情報を忘れることにつながります。

一方で「知る権利」は、当事者以外の人々が過去・現在問わず、政治や行政、社会のあらゆる情報を知ることができる権利です。

つまり、両者の権利は正反対にあるということが言えます。どちらが優先されるべきというのは、そのケースによることが現状です。

現在、ネットは普及し、人々の暮らしに欠かせない存在となっています。
この記事でお伝えした、男性が検索結果の削除を求めた裁判のような事例は、これからますます行われることでしょう。
今後、日本においての‘ネット上の情報削除’について注目が集まりそうです。