人は忘れるが、インターネットは忘れない。
2015年、さいたま地裁は『社会から「忘れられる権利」が有されるべきである』という見解を示しました。これをきっかけに、日本でも忘れられる権利が注目を集められるようになりました。
忘れられる権利とは
忘れられる権利とは、個人がインターネット上に載っている自身の情報の削除、または非表示を求める権利のことをいいます。別称、「削除権」「消去権」「忘却権」とも呼ばれます。
インターネットの普及によって、個人の情報は永年の残るようになっています。しかし、個人にはプライバシーの権利があります。それを考慮し、過去の個人にまつわる情報を抹消する権利として提唱されているのが、忘れられる権利なのです。
但し、忘れられる権利は提唱までに留まり、憲法で保障されていないのが現状です。
忘れられる権利とEU一般データ保護規則案(GDPR)
そんな忘れられる権利の発祥は、EU(欧州連合)です。2012年にEUが発表した「EU一般データ保護規則案(GDPR)」の第17条に、忘れられる権利についての規定が初めて盛り込まれました。
GDPRでは、「個人は企業に対し、自身の情報の削除要求が可能。また、削除要求が拒否された場合は、その理由を知る権利がある」といったような内容の規定があります。
プライバシーの侵害や名誉毀損に苦しむ人が増加する傾向を受け、EUでは忘れられる権利が、新たな人権の概念として生まれたのです。
そのため、欧州では忘れられる権利を行使して、サイト運営者やグーグル等の検索エンジンに対し、削除要求をすることが認められています。
日本で忘れられる権利について言及された判例
日本では、忘れられる権利をめぐった判例があります。
児童買春・ポルノ禁止法違反罪によって50万円の罰金刑に処された男性が、事件から3年経過してもネット上に実名、住所が掲載されていることについて、グーグルを相手に削除を求める仮処分を、さいたま地方裁判所に申し立てました。
それを受け、さいたま地方裁判所はグーグルに対し、逮捕歴が分かる検索結果の削除を命じました。しかし、グーグルはその命令を不服と唱えました。
そこで、さいたま地方裁判所は、削除命令の決定理由に、「ある程度の期間が経過した場合に、忘れられる権利が認められるべきである」と言及しました。
しかし、東京高等裁判所は、忘れられる権利について「そもそも我が国において法律上明文の根拠がなく、その要件及び効果が明らかではない」として、さいたま地方裁判所の削除命令を取り消す判決を下しました。
その決定を不服とし、男性は最高裁判所に上訴しました。
最高裁判所は、忘れられる権利については一切言及せず、男性のプライバシーを侵害するかどうかで判断しました。結論、プライバシーを侵害しないと判断し、男性の主張を退けました。
このように、忘れられる権利をめぐっては、さいたま地方裁判所、東京高等裁判所、高等裁判所、それぞれで見解が異なりました。
忘れられる権利と表現の自由・知る権利
以上の判例の東京高等裁判所と最高裁判所のように、忘れられる権利が劣後されるケースは珍しくありません。それには、忘れられる権利を過剰に尊重すると、侵害される権利があることが背景にあります。
その権利とは、表現の自由(表現者の保障される自由)と知る権利(何からも妨げられることなく情報を得られる権利)です。
それらの権利が侵害されないために、日本では忘れられる権利に対して、慎重な姿勢が示される傾向にあります。
まとめ
人は忘れる。しかし、インターネットは忘れない。だからこそ、忘れられることが権利として認められる必要性が生じています。
しかし、対の関係にある知る権利と表現の自由と天秤にかけながら、必要性を考慮しなければならないため、難しい課題になっています。
今後も、日本では忘れられる権利をめぐる議論は続いていくでしょう。