インターネット上のトラブルとして多い「誹謗中傷問題」。有名人や一般人問わず、誰もが被害に遭う可能性がある問題です。
しかし、やはり被害に遭うことが多いのは芸能人やスポーツ選手などの著名人です。
この記事では、ネット上の誹謗中傷被害を受けた著名人が、どのような心境を語り、どのような対処をしたかをご紹介します。
誹謗中傷の対象になりやすい有名人
以前ならば、「マスコミ」をという第三者を通じて伝えられる芸能人やスポーツ選手などの有名人が、ファンへ贈るメッセージ。現代では、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が普及したことによって、そのメッセージはネット上で直接ファンへ伝えることができるようになりました。
そして、逆にファンから有名人へ向けた言葉も、ネット上でダイレクトに伝えられることが可能です。
SNSは、有名人とファンの距離を近づけたという良い部分があります。しかし、そのことにより、有名人は世間からの誹謗中傷の声もダイレクトに浴びせられるようになっています。
有名人は、一般人を訴えにくい
有名人が世間から批判の声を受けることは、これまでにも多くありましたが、そのことで有名人が、一般の人を訴えるというケースはあまりありませんでした。
その理由のひとつとして、芸能人は「人気商売」の側面があり、誹謗中傷されることがあっても、相手を「訴える」という行為によって人気が下がってしまう可能性があります。
それはスポーツ選手や政治家も同様です。とくに政治家の場合、人気が下がることにで、次回の選挙で落選し、職を失うことも考えられます。
ですが、ネット上の掲示板やSNSなどで有名人に対する誹謗中傷は多く、その声をダイレクトに受けるため、近年では相手が一般人でも訴えるケースがあります。
「ファーストペンギン」野球選手が一般人を訴えたケース
2018年1月、プロ野球・横浜DeNAベイスターズの井納翔一投手の夫人が、電子掲示板で誹謗中傷をされたとして、一般人の20代女性のAさんに慰謝料を請求したと一部で報じられました。
訴えられたAさんは、匿名掲示板で「そりゃこのブスが嫁ならキャバクラ行くわ」と井岡投手の夫人に対する言葉を投稿。その後、Aさんのもとに訴状(裁判を願い出る書類)が届き、約200万円を請求されたと言います。
このケースはプロ野球選手である有名人の夫とその妻が、一般人を訴えたということで珍しいケースと言えます。
この行動に対して、メジャーリーガーのダルビッシュ有投手は、「本当悪口ばっかり書いているアカウントの人いるけど気をつけた方がいいですよー!」とツイッターでコメントしています。
また、テレビ朝日系の情報番組「羽鳥慎一モーニンショー」に出演する同局の玉川徹氏は、井納の行動に対して「ファーストペンギン」と称えて評価していました。
本当悪口ばっかり書いてるアカウントの人いるけど気をつけた方がいいですよー!https://t.co/L40KHznB7H
— ダルビッシュ有(Yu Darvish) (@faridyu) 2018年1月29日
匿名での書込み…なぜAさんの身元がバレた?
井岡投手の夫人は、「発信者情報開示請求」手続きを経て、匿名掲示板での書込みにも関わらず、Aさんの身元を特定したとされます。
「発信者情報開示請求」とは、プロバイダ責任制限法で認められている法的手続きで、ネット上に書込みをした人物を特定できる手段として用いられます。
「発信者」とは、匿名掲示板やSNSで書込みを行った人物のことです。「開示請求」とは相手が持っている情報を提示するように求めることを指します。
発信者開示請求の具体的な方法
発信者情報開示請求を行う方法として、最初に問題の書込みがされたサイトの管理者に、投稿者のIPアドレス(インターネット上の住所)とタイムスタンプ(投稿された日時)の提示を求めます。
次に、インターネット回線会社にIPアドレスとタイムスタンプを照会し、投稿者の氏名や住所、メールアドレスなどの情報を請求します。
サイト管理者や回線会社にしてみれば顧客情報の提示を求められることになり、提供を拒むケースが多くあります。その場合、裁判を起こし、裁判所から情報提供の仮処分を降してもらう必要があります。
エド・はるみ
お笑いタレントのエド・はるみさんが、2009年から5年間にわたり、ネット上でいわれなき誹謗中傷を受けていたとして、法的措置を検討していると弁護士事務所を通じて表明しました。
弁護士事務所の発表によると、一部週刊誌が報じた記事が発端となり、ネット上での誹謗中傷に発展したとのこと。掲示板などでもエドさんを非難する書込みがあったと言います。
弁護士は、「当職としては、インターネット上に掲載されている同志に対する一連の誹謗中傷行為に対し、必要であれば、裁判上の手続きも辞さない方針です。」とコメント。記事や掲示板への書込みは、エドさんが所属する芸能事務所・よしもとクリエイティブ・エージェンシーに確認したところ、事実ではないと否定していると明かしています。
スマイリーキクチ誹謗中傷事件
お笑いタレントのスマイリーキクチさんは、ネット上の誹謗中傷問題が表面化しない1999年頃から、いわれなき誹謗中傷に苦しめられていました。
その内容は、1989年に東京都で発生した「女子高生コンクリート詰め殺人事件」(以下、コンクリ事件)の犯人だとネット上で言われ、執拗な嫌がらせや脅迫する言葉が、匿名でブログのコメント欄に寄せられたと言います。
「死ね」や「殺す」、「お笑いライブで事件をネタにしていた」などの脅迫やデマが流れ、キクチさんが出演するCM企業には「殺人犯をテレビに出すな!」という抗議もあったそうです。
当時は、まだネットの誹謗中傷問題が深刻であることを認識している人は少なく、キクチさんが警察に相談に行っても、警察官はまともに取り合ってくれませんでした。
ですが、何度も警察へ相談に行くうちに、ネット上のトラブルに詳しい警察官に出会い、2008年から09年までに男女19名が、名誉毀損罪などで逮捕されています。
19名の逮捕者を出した誹謗中傷事件…そのきっかけは?
犯人が逮捕されるまで約10年間にわたり顔も名前も知らない相手からの誹謗中傷に苦しんだキクチさん。
その事件のきっかけは単純なものでした。スマイリーさんが、コンクリ事件の犯人と「出身地が同じ東京都足立区」「同世代」「10代の頃不良だった」というものだったと言います。
誹謗中傷事件から約20年…スマイリーキクチの現在
スマイリーさんは現在、お笑いタレントを続けながら、ネットの危険性やトラブル対処法、人権などについて全国各地での講演活動を行っています。
そして、ブログやツイッターを開設し、日々、ネット上の誹謗中傷に関連した投稿を行っています。
匿名で自らの姿を隠し、散々言葉で人を傷つけておきながら、名前や身元が特定されると「みんなもやっている」と責任をなすりつける。最終的に「悪気はありません」「仕事や私生活が上手くいかなくて」と可哀想なワタシを演出する。最初から最後まで臆病で卑劣な人間なんだ。。。
— スマイリーキクチ (@smiley_kikuchi) 2018年3月29日
「火のないところに煙は立たない」は過去の話、情報化社会の現代は「火のないところに火を放つ」が主流かも。これは言論の自由ではなく言論の無法。今は情報の放火魔が無数に存在する。デマの餌食にされた人は記事の削除や発信者の特定もままならず、司法にさえ見放される。#NHK #フェイクニュース
— スマイリーキクチ (@smiley_kikuchi) 2018年3月22日
最後に
近年、急速に普及しているインターネット。ブログやSNS、掲示板などで情報を得たり発信したりと、日々の生活を送る上で欠かせない情報源にもなっています。
しかし、ここ数年で私たちの生活に入り込んできたネットと、人々はまだ上手に付き合えていないとも言えるのではないでしょうか。
「匿名」で「自由」に書込みができるネットですが、その場所は決して実社会とかけ離れた世界ではありません。
ネットは実社会であることを認識し、他人を誹謗中傷したら訴えられるケースもあることを忘れてはいけません。