2019年8月、茨城県の高速道路で起きたあおり運転の事件については記憶に新しい人も多いのではないでしょうか。
逮捕された男があおり運転を行った後、あおった車の男性を殴打した事件で、一緒にいた女がガラケーで撮影していたのが印象的な事件でしたね。
そしてこのあおり運転事件に全く関係のない女性がSNSで愛知県豊田市の市議会議員にデマを拡散されたというニュースは最近になって市議会議員の謝罪があったので話題になりましたね。
この女性は「名誉毀損」として市議会議員を訴えているのですが、一体この女性に何があったのでしょうか?
「SNS・ネット掲示板」でのデマから始まった情報拡散
愛知県豊田市の原田隆司市議会議員はフェイスブックの自分のアカウントにて、事件に全く関係ない会社経営の女性の写真や名前を掲載した投稿を拡散して「早く逮捕されるよう拡散お願いします」などとコメントを投稿していたというものです。
この女性は事件に全く関係ないのにSNS上に名前や写真が掲載されてしまったため、女性のインスタグラムには誹謗中傷のコメントが溢れ、経営している会社の電話は事件に関する嫌がらせの電話が鳴りつづけるため仕事に必要な電話を取ることができず、ホームページも一部非公開にしなければならないなど、私生活だけでなく会社の業務にまで支障が出てしまったと言います。
女性側は「議員という公的な立場において積極的に拡散を試み悪質だ」として、100万円の慰謝料を支払うよう原田市議に求めています。
さて、SNSやインターネット掲示板で個人情報を拡散したこの市議会議員の行為は犯罪になってしまうのでしょうか?
SNSや掲示板で個人情報の拡散は犯罪になる?
結果から言うと犯罪になります。
SNSや掲示板といった不特定多数の人が見るインターネット掲示板で名前や住所・顔写真などの個人情報を拡散した場合、名誉毀損罪や侮辱罪該当する可能性があるのです。
また、この女性社長に関して言えば会社の業務を妨害されていることから業務妨害にもあたると考えられるのです。
今回の件はフェイスブックだったため誰が書き込んだかすぐにわかりましたが、匿名掲示板の場合は誰が書き込んだか簡単にわからないため、嫌がらせや憂さ晴らしのために個人情報を漏えいする書き込みをする人がいます。
あおり運転の事例では名誉毀損を受けた当事者が代理人弁護士を通し声明を発表
声明の中で、まず女性があおり運転に同乗していた女であるというデマの情報を匿名掲示板の「5ちゃんねる」やSNSサイトの「Twitter」で公開されてしまったため、会社に電話がかかり続けて業務に必要な電話が取れなくなっていたこと、そのような無用な電話がかかってくることを防ぐために自社ホームページの一部を非公開にしなければならなかったことなど業務に支障が生じたことが挙げられています。
そしてこのデマの情報は女性の会社および女性自身の名誉権を侵害するものであるとしています。
デマの情報を発信する記事を投稿しただけでなく、この記事を引用して広める行為についても名誉権の侵害である可能性があると付言しています。
これらの状況を踏まえて、女性の会社及び女性本人と代理人弁護士はデマの情報を広めている者に対して法的措置を取ることを検討しているとしています。
最後に書かれている文章には、同乗していた女と似た格好をしていたという極めて薄弱な根拠をもって女性を被疑者だと断定し、伝播性の高いサイトで公表したことにより事実無根の誹謗中傷を招き、事件とは無関係の人間がきわめて大きい社会生活上の不利益を被ってしまう現在の風潮は非常に危険なものだと考えます。という内容が書かれていました。
インターネット上の情報を鵜呑みにして安易に広めてしまうということは全く関係のない第三者まで傷つけてしまうという本当に恐ろしい事案です。
実際に該当するとされる罪や行為は?
ではこの事案はどのような罪に該当するのかということですが、犯人でもなんでもない全く関係ない第三者を犯人扱いした行為は「名誉毀損罪」に該当します。
元々の記事を投稿した人はもちろん、それを拡散した原田市議も、原田市議の記事をさらに拡散した人や転載、リツイートなどした人もみんな名誉毀損罪に該当することになります。
名誉毀損罪とは、公然と事実を指摘し他人の社会的評価を落とす行為のことを言います。
この事案の場合はインターネット上で全世界に向けて発信をしているのですから、「公然」の要件を満たします。また、この事案では、女性が同乗していた女である、との「事実が摘示」されていました。
そして、同乗していた女の行動に批判的な意見が高まっていたことからすると、この摘示された事実は女性の社会的評価を低下させているといえます。
そのため、本件でデマを流したり、拡散したりする行為は名誉毀損罪に該当するということになります
デマはデマに過ぎず、「真実を指摘」しているわけではないじゃないから、名誉毀損罪は成立しないと思われるかもしれませんが、この事実の指摘については真実であってもなくても当てはまるのです。デマでもあたかも真実のように公然に公表してしまっているために女性の社会的評価が落とされてしまった、このような場合でも名誉毀損罪が成立するのです。
同時に、女性の会社のホームページが閉鎖されたことなど業務が妨害されたことについては「偽計業務妨害罪」が成立します。
偽計業務妨害罪は嘘の情報を不特定多数の人に広めることによって人を欺き、その結果人の業務を妨害したような場合に成立します。ぴったりとあてはまりますね。
名誉毀損と同様に、拡散や転載、リツイートをした人も偽計業務妨害罪に当てはまります。
過去にもあった!デマから書類送検された事例
同じくあおり運転の事例なのですが、東名高速であおり運転を受けて停止したワゴン車に大型トラックが追突し夫婦が死亡した事故でもデマ情報が流れました。
こちらも全く無関係の北九州市にある「石橋建設工業」という建設会社に関する内容です。
この事件であおり運転を行い逮捕された男の名前が「石橋」で、男の自宅が北九州市に近かったことから石橋建設工業の社長を“容疑者の父”、石橋建設工業を“容疑者の勤務先”だとする全くのデマでした。
このデマによって石橋建設工業には男が逮捕された翌日には嫌がらせや誹謗中傷の電話が100件に上り、それ以降も会社名や電話番号がインターネット上で拡散し続けたため業務に支障が出たということです。
このことから福岡県警は石橋建設工業に関するデマの情報や個人情報をインターネット上に書き込んだり転載したりして不特定多数の人に閲覧させ、石橋建設の名誉を損なわせた疑いがあるとして、福岡市などに住む男11人を名誉毀損容疑で書類送検しました。一旦は全員が不起訴処分となりましたが、その後検察審査会において不起訴不相当という結論が出ました。これにより、再度検察は審査会の決議を参考にして改めて起訴または不起訴を決めることになりました。
石橋建設工業の社長は「逮捕された人以外にも書き込みに関わった人は居ると思う。これで終わりだと思っていない。」という内容のコメントをしています。
今回の事例「虚偽情報拡散事件」では和解成立など慰謝料の請求が行われている
では女性のデマ情報の拡散に戻りますが、既に謝罪にとどまらず和解の成立を希望した投稿者8名との間では和解が成立しているそうです。
その中には、デマ情報の拡散が始まった初期に拡散を行っていたアカウントの管理者が含まれており、この人とは一定額の慰謝料の支払いと以降女性について情報を発信しないなどの条件で和解が成立したそうです。
なお、この8人の内の大半はトレンドブログの運営者で、この人も同じく一定額の慰謝料の支払いと女性に関する記事の公開によって得た利益額を支払うこと、前者と同じように条件を加えて和解が成立しているそうです。
今後はこの和解内容を参考にしながら、裁判後に和解を申し出た人には人物の特定に要した費用などを上乗せするとしています。
拡散したことについて謝罪をし、和解を申し入れた人がいる一方で、拡散したことはバレないだろうと思っている、もしくはこんなことになっているなんて思ってもいない人がいるということですね。
さて、問題の原田市議は一体どういう対応をしたのかというと、慰謝料の請求に応じなかったため女性側が100万円の損害賠償を求めて提訴したところ、急に謝罪動画をフェイスブックにあげたそうです。しかも女性が損害賠償を求めて提訴した理由は「なんで俺だけ」と言っていることを知ったからだと言います。
自分がやってしまったことを反省し和解を申し入れた人と原田市議の認識の違いが浮き彫りになっていますね。自分がどれだけのことをしてしまったのか、もう一度考えてみてほしいものです。
「虚偽情報拡散事件」で対象となっているSNSや掲示板
トレンドブログ
今アツい話題をひたすら追いかけて記事を量産することによって、急激なアクセスを集める手法のことをトレンドブログと言います。和解した人の中にもこのトレンドブログの運営者が含まれていましたね。
トレンドブログは情報の質が問題されることが多く、京都アニメーションの事件の際には根拠のない情報拡散を広い範囲で多くしていたそうです。
匿名掲示板
5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)や爆サイ.com、がーるずちゃんねるなど、匿名で特定の話題について書き込みを楽しむ掲示板のことです。
匿名掲示板は匿名での書き込みのため、情報に責任を持たずに書き込みする人がいるようです。
匿名であるのを良いことに、名指しで誹謗中傷の書き込みをすることも問題視されています。
動画投稿サイト
Youtubeやニコニコ動画、FC2動画などが有名な動画投稿サイトではないかと思います。
主に問題視される内容は違法アップロードや著作権・肖像権の問題です。
Facebook社(Instagram)
世界最大のSNSサイトであるFacebook。そしてInstagramはFacebookが提供している写真共有アプリです。Facebookは公開の範囲を「友達の友達」にまで拡大すると世界中に投稿した写真が出回ってしまう危険性があります。投稿も同じで、まさに今回の女性の件はその最たるものといえるのではないでしょうか。
Instagramも写真にうっかり写り込んでしまったものをインターネット上にあげられてしまうといったトラブルなどが挙げられます。
Twitter社
Twitterは140文字以内の書き込みを沢山の人と共有するサービスです。
日常生活のつぶやきをするため、写真から個人情報が漏えいするといった問題や、この度の件のようにデマをリツイートされるなどして拡散していく危険性があります。
女性があおり運転の同乗していた女と間違えられたこの度の事案については、Twitter社やFacebook社に対して発信者情報開示仮処分申し立てなどを行い、すでに個人情報の開示について手続きが進められています。
事例「虚偽情報拡散事件」の進捗情報
この事案については前述したとおり原田市議に対して慰謝料請求がされています。
また、女性は豊田市議会に対しても、原田議員について適切な措置を検討してほしいという通知書が送られています。ただしこの通知書は事案の報告及びお願い程度のものであり、市議会に対し責任追及をするものではないそうです。
通知書を送ってから約2週間後と、訴訟を起こした直後に原田市議から謝罪の手紙が送られてきたものの、解決に至るものでは無かったそうです。
引き続き発信者情報開示請求は行われているものの、特定までにはまだ数か月の期間を要するとのことです。どれほどの人数がいるのかわかりませんが、もしかなりの人数が名誉棄損で訴えられるようなことがあれば大きな話題になりそうですね。
同じように名誉毀損などの被害にあった場合は?
先ほどからちょこちょこ出てきている「発信者情報開示請求」ですが、匿名掲示板に書き込んだ人の特定や実名がわからないTwitterアカウントが誰のものかなど、個人を特定するために会社に情報開示をすることを請求する手続きです。
例えばTwitterであればまずIPアドレスというインターネット上の住所のようなものとタイムスタンプ(投稿日時)をTwitter社から開示してもらいます。このIPアドレスとタイムスタンプをもとに今度はインターネットプロパイダであるネット回線会社(NTTなど)に対して氏名や住所などの個人情報を開示するよう請求するのです。
こうすることにより個人を特定し、名誉毀損の訴えをしたり慰謝料の請求をしたりすることができます。
しかしこの開示請求は相手の会社の住所を管轄している裁判所で行わなければならないため、大きな会社は東京などに存在する、つまり東京に出向かなければならなくなります。
そのため弁護士などに依頼するケースが多いのです。
もし女性たちと同じようにインターネットでデマを流されて誹謗中傷などの被害に遭ってしまった場合は開示請求から名誉棄損の訴えなどまで、楽で確実に処理をしてくれる弁護士に依頼することをおすすめします。
名誉毀損から慰謝料請求ができるのか
名誉毀損をされた場合慰謝料請求をすることは可能です。
慰謝料とは精神的被害に対する損害賠償のことなので、名誉棄損によって受けた精神的被害に対する損害賠償として慰謝料を請求することができるということになります。
名誉毀損をされた場合はそのことを証明できるように書き込みがあったページをURLが全部表示される状態でスクリーンショットを撮るなどして証拠を残しておくことが大切です。
名誉棄損による慰謝料の相場は、一般人の場合10~50万円、事業主の場合は売り上げに影響が出ることも考慮されるため50~100万円となっています。
名誉棄損の内容が虚偽のものだった場合は高額になる傾向にあるそうです。
まずは、専門家への相談から
女性や石橋建設工業のように事実無根の第三者がインターネットの書き込みによる被害に遭った場合、正直初めは意味が分からずパニックになってしまうのではないかと思います。
全国的なニュースに関するデマが流れてしまったら、情報の質が悪くても信じて拡散してしまう人がいる以上素人ではどうしようもない問題なのではないでしょうか。
大きな規模でなくても、自分のことを嫌っている誰かがインターネット上に誹謗中傷を書き込んでいるかもしれません。それでも十分にショックを受けるはずですし、場合によっては個人情報を漏えいされたことによりストーカー被害に遭ってしまうというケースもあります。
そんな時はまず、法律の専門家である弁護士に相談してみてください。
どうしてこうなってしまったのか、これからどうすればいいのか、名誉棄損などで訴えることはできるのか、慰謝料の請求をすることはできるのか…。
無料相談を受け付けている弁護士もいます。
被害に遭ったらまず、気軽に弁護士などに相談してみましょう。
記事まとめ
インターネットの個人の書き込みを鵜呑みにして拡散してしまうと訴えられたり慰謝料を請求されたりと、大変なことになってしまうことがわかりました。自分はもちろんそうですが、訴えた側はもっと大変な思いをしているのです。誹謗中傷を受け、営業妨害をされ、深く傷ついている事かと思います。
信用できる情報かどうかを見極めることは簡単ではないと思います。
拡散しても問題ない情報を拡散すること、既に拡散してしまった情報に誤りがあった場合は速やかに謝罪などを行うこと、逆に拡散されて名誉毀損などの被害を受けてしまった場合は速やかに弁護士に相談するなどして誹謗中傷に対処することなどが求められるのではないでしょうか。
この事案の結果によってインターネットとの付き合いがどう変わっていくのか、注目しておいた方がよさそうですね。