ネット誹謗中傷の加害者が経験する最悪な末路とは

ネット誹謗中傷の加害者が経験する最悪な末路とは

 ネット上の誹謗中傷が問題視され、被害は年々拡大傾向にあります。いわれなき誹謗中傷に苦しむ人がいる一方で、ほんの出来心で加害者になってしまった人も存在します。

 この記事では、誰にでも可能性がある「誹謗中傷の犯人」になってしまった場合の最悪の末路をテーマにお伝えしていきます

 

誹謗中傷とは

 そもそも誹謗中傷とは、根拠のない悪口を徹底的 に言い、他人の社会的名誉を傷つける行為のことを指します。
 例えば、ネット上に書かれる誹謗中傷は、以下のようなものが挙げられます。

■「○○さんは、社内で不倫している」
■「○○さんは、前勤務していた会社で横領していた」
■「○○会社は従業員に給料を支払ってない」

 以上のような誹謗中傷が、SNSや掲示板、口コミサイトなどで後を絶ちません。

 

誹謗中傷の加害者Aさんが経験した最悪な末路

誹謗中傷する人

 ネットで誹謗中傷をする人は、ダメだと頭でわかっていても、ついつい他人を揶揄するような言葉を書き込んでしまいます。但し、それは出来心では済まない最悪の事態に発展する場合もあるのです。

 ここからは、誹謗中傷の加害者になったAさんが経験した最悪な末路についてお伝えていきたいと思います。

悪口を書き込んだ

 休日のA子さんは、時間を持て余していたため、自宅のパソコンで掲示板の5ちゃんねるを見て楽しんでいました。

 サイトを見ていると、自身が勤務している会社のスレッドを発見し、読んでみると社内の内情が面白おかしく書き込まれていました。

 もともと、残業代が正確に支払われていないことに不満を抱いていたA子さんは、「○○会社は月に50時間残業しても残業代が出ない」「社長はドケチのハゲ野郎」「こんな会社働く価値なし」等、会社や社長の悪口を書き込みました。

500万円の慰謝料請求と会社退職

 会社の悪口を書き込んだ後もA子さんは、時々その掲示板を覗くように…。すると、自分の書込みが削除されていることに気づきました。
 ですが、A子さんは特に気にすることもなく、さらに月日は流れ、削除されたことで書込みをしたことも忘れていていきました。

 そして、ある日突然、契約しているネット回線会社(インターネットプロバイダー)から「発信者情報開示請求の可否について」という書類がA子さんのもとに届きました。

 その書類は、掲示板に書込みをしたのは、A子さんの自宅(住所)であることを、書込みをした会社側(A子さんの勤務先)に教えてもよいかという内容でした。

 突然、書類が届いたことで驚いたA子さんは、住所など個人情報を提供することを拒否しました。しかし、その後も相手は個人情報を求めて、裁判に発展…。

 結果、ネット回線会社が敗訴したため、A子さんのもとに「慰謝料として500万円を支払うように」という、内容証明郵便が届きました。

 裁判を起こされ、悪口をネットに書き込んだことが勤務する会社に知られてしまったA子さん。会社に居づらくなり、退職しました。

待っていたのは示談金を支払う日々

 会社を辞めたA子さんに残ったのは500万円の請求書。どうしたらよいか分からないAさんは、無料で相談できる弁護士をネットで探し、これまでの経緯を説明しました。

 弁護士のアドバイスのおかげで、A子さんは会社とは示談で済むことに。しかし、現在も月々数万円ずつの示談金を相手に支払う生活が続いています。

 

匿名の書き込みは開示請求で身元がバレる

 以上のAさんの話の中では、突然、ネット回線会社から「発信者情報開示請求の可否について」と題された書類が届いています。匿名の掲示板に書き込んだはずが、なぜA子さんの住所に書類が届いたのでしょうか。

 それは、「開示請求」という法的な手続を採ったためです。

開示請求とは

 開示請求とは、相手が持っている情報を提示させる手続のことをいいます。開示請求は、ネット上で問題の書込みをした人物(犯人)を探し出すための手段として用いられます。

Aさんの身元が特定されるまでの経緯

 さて、Aさんは、どのような経緯で身元を特定されたのでしょうか。

 まず、会社はコンテンツプロバイダ(サイト運営者の5ちゃんねる)に問題の書込みをした投稿者のIPアドレス(インターネット上の住所)、タイムスタンプ(書込みがされた日時)などの情報を提示させます

 次に、インターネットプロバイダ(ネット回線会社:docomoなど)にIPアドレスとタイムスタンプを照会してA子さんの住所に「発信者情報開示請求の可否について」と題した書類を送ったと考えられます。

 ネットを利用する人は必ず、インターネットプロバイダと契約し、使用料金を支払っています。A子さんもインターネットプロバイダと契約を結び、ネットを自宅で利用していました。契約の際、氏名、住所、電話番号など個人情報を提供していることで、会社側は、A子さんに書類を送ることが可能だったのでしょう。

 

誹謗中傷で問われる罪

 A子さんのケースでお話してきましたが、ここからは悪質な誹謗中傷を繰り返した場合、警察に逮捕されるケースがあることについてお伝えします。

 誹謗中傷の被害者が、警察に相談し捜査によって逮捕できると判断されると、加害者は刑事罰を受ける可能性があるのです。具体的には、以下の罪に問われます。

名誉毀損罪

 名誉毀損とは、他人の社会的評価を下げる行為のことを言います。

 不特定多数の人が知り得る状況下で名誉棄損を行うと、刑法230条で定められている名誉毀損罪に問われる可能性があります。名誉棄損罪が成立すると、3年以下の懲役、または50万円以下の罰金が科せられます。

【詳細記事】法律上の名誉毀損とは?わかりやすく解説

侮辱罪

 侮辱とは、相手を軽んじて、はずかしめたり、見下して名誉を傷つけたりする行為のことを指します。

 「バカ」「クズ」「ブス」等、具体的な内容には触れず、漠然とした表現で相手の社会的評価を下げると、刑法231条で定められている侮辱罪に問われる可能性があります。

 侮辱罪が成立すると、拘留(1~29日間、刑事施設に収監すること)または科料(刑罰としての一定額の取り立て) に処される可能性があります。

【詳細記事】侮辱罪をわかりやすく解説:侮辱罪に当たる事例も紹介

脅迫罪

 脅迫とは、相手を脅し、恐怖を与える行為のことをいいます。
 生命、身体、自由、名誉または財産に対して害を加える旨を告知すると脅迫罪に問われる可能性があります。

 例えば以下のような告知を行うと脅迫罪が成立する可能性があります。

「お前を殺すぞ!」
「殴るぞ!」
「娘を誘拐するぞ!」
「世間に公表するぞ!」
「家に火をつけるぞ!」

 脅迫罪が成立すると、2年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

【詳細記事】脅迫罪とは?簡単に分かるように解説

業務妨害罪

 業務妨害罪は、偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪の2つに分けられます。

偽計業務妨害罪

 偽計業務妨害罪とは、ウソの噂話しを流して人を欺き、業務を妨害する行為に対して成立する罪のことを指します。

 過去には、旅行会社に勤務する社員男性が、高校の遠足バスを手配することを忘れたことで、生徒を装って自殺をほのめかす手紙を学校に送りつけ、遠足を中止させようとした事件がありました。これは、バスの手配を忘れたミスを隠すためにした行為と見なされ、男性社員は偽計業務妨害罪で逮捕されました。

威力業務妨害罪

 威力業務妨害罪とは、精神的な圧力をかけて業務を妨害する行為に対して成立する罪のことをいいます。
 例えば、「市役所に爆弾をしかけたぞ!」と脅し、市役所の業務を妨げる行為等に威力業務妨害罪が成立する可能性があります。

 上記の偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪は、いずれも3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。

 上記でお伝えした中には、警察に逮捕され、裁判で有罪になれば懲役刑が下される刑もあります。

【詳細記事】業務妨害罪とは:条文と構成要件から紐解いて解説

 

有名人が誹謗中傷で訴訟を起こした事件

 ネット上の誹謗中傷に遭いやすい人物として、芸能人やスポーツ選手等の有名人が挙げられます。表舞台に立つ機会が多い人ほど、見る人から様々な感情を持たれ誹謗中傷のターゲットになりやすいことが考えられます。

 民間企業や民間人(一般人)が誹謗中傷を受けて、相手を訴え裁判に発展したケースは、近年増えてきています。しかし、有名人が誹謗中傷で訴えるケースは少ないです、それは、誹謗中傷で訴えたことでイメージダウンに繋がるのではないか、と懸念しているためです。

 そんな中、ネットの匿名掲示板で誹謗中傷されたとして、プロ野球・横浜DeNAベイスターズの井納翔一投手が、一般女性に対して訴訟(裁判所に訴えて、権利・義務の法律的確定を求めること)を起こした事件があります。

約200万円の慰謝料請求

 井納選手の夫人に対し、「嫁がブス」とネット上の匿名掲示板で誹謗中傷したとして、20代の一般女性が訴えられことが、2018年1月に一部週刊誌で伝えられました。

 ほんの出来心で書いてしまったという加害者の女性。突然、発信者情報開示請求書が届き、約200万円の慰謝料を請求され途方にくれている、という内容で報道されました。

有名人が井納を擁護

 井納選手が一般人に対し訴訟を起こしたニュースは、同じスポーツ選手や芸能人から反響があり、それぞれの考えをツイッターに載せています。

 以前、キクチさんはネット上で凶悪殺人事件の犯人とデマを流され、いわれなき誹謗中傷に苦しんだ過去があります。

 今回、井納選手がいわれなき誹謗中傷に苦しみ、一般人であっても訴えた事例は、今後、「ネットで誹謗中傷したら訴えられるかもしれない」という認識が世間に浸透する大きなきっかけとなるかもしれません。

 

誹謗中傷する人に効く言葉を3つ

 そんな中、2020年5月23日、プロレスラーの木村花さんが死去しました。その背景には、SNSで執拗な誹謗中傷があったと報じられています。
 それを受け、大リーガーのダルビッシュ有投手がツイッターで「誹謗中傷する人に効く言葉3選」をつづりました。

 有名人は各々の対策をしていることがうかがい知れます

 

誹謗中傷する人へ

 とはいえ、SNS上には匿名で相手を誹謗中傷し、ストレスを発散している人たちが一定数存在します。
 人をむやみに傷つける誹謗中傷は決して許される行為ではありません。

 漫画家のスメル・デ・ラ・ロチャさんは、木村花さんの死去を受け、「誹謗中傷する人へ」と題した4コマ漫画をツイッターに公開しています。

 ネット上で誹謗中傷している人は、「自分の行いは大したことではない」と思っているかもしれません。しかし実際は、この4コマ漫画のように相手を殴りつけ、血みどろにするような醜い行為をしているのです。

 画面の向こう側にいるのはモノではなく、感情を持った人間です。その現実を忘れて言葉の暴力を振るうのは、あまりにも身勝手ではないでしょうか。

 4コマ漫画を読んだ人からは、「まったくもってその通り!」「すごい共感出来る」といった共感の声が相次いでいます。

 木村花さんの死は、ネット社会を大きく変える出来事になっています。多くの人が画面越しの相手であっても生身の人間であると認識し、正しいコミュニケーションがネット社会になることを願います。