過去の犯罪歴・逮捕歴は削除できるか?実名報道がもたらす苦悩

  • 2018.06.12
過去の犯罪歴・逮捕歴は削除できるか?実名報道がもたらす苦悩

残酷な殺人や巨額な詐欺など世間を震撼させる事件から、スポーツやエンタメニュースまで…。日々、さまざまなニュースが報じられ、私たちはそれをテレビや新聞、ネットなどで目にしています。

殺人や詐欺などの事件の場合、加害者(犯人または被疑者)の名前、被害者の名前が報じられる場合があり、実名を知ることで事件をリアルに感じ、関心を持つ人もいることでしょう。
しかし、この実名報道が本人にとっては一生苦しむことになる繋がることがあります。

この記事では、実名報道された加害者側の観点から、ネット上に残る犯罪歴の削除についてご紹介します。

実名報道

「実名報道」とは、マスコミが事件や犯罪の加害者や被害者など、事件に関係する人や団体の名前をテレビや新聞、ネットのニュースに載せて報道することです。

事件や犯罪に「誰が」関わったかは、ニュースの重要事項と位置づけられています。
そのためマスコミは、原則として実名報道します。しかし、例外として実名で報じないケースもあります。

実名報道しない場合

原則、マスコミは実名報道をすることをお伝えしましたが、例外として犯人の実名を公表しない場合があります。以下、ご紹介します。

■未成年者である

未成年者(20歳未満)が犯人の場合、少年法61条で氏名、年齢、職業、住所、容姿(顔写真など)をマスコミが報じることを禁止しています。

この法律の目的は、報道によって実名が世間に公表されることで、更生が期待できる少年の社会復帰を阻害されないことです。

しかし、少年による凶悪事件の場合、一部のマスコミが実名を報道することが多々あります。
実例を挙げると、2015年に神奈川県川崎市で発生した「川崎中1男子生徒殺害事件」で、犯行グループの主犯格とされる当時18歳の少年Aが、同年3月5日発売の週刊新潮で実名報道されています。

マスコミが少年の実名報道に踏み切る理由として、「社会的影響力が大きい事件であること」「少年法61条は努力規定であること」が挙げられます。

つまり、世間を震撼させる事件は、少年法61条の定めよりも、国民の「知る権利」や「報道の自由」のほうが優先されるという考えがあります。
そして、少年法61条は、厳守しなければいけない法律ではなく、守るように努力しなければならない「努力規定」で定められています。したがって、少年の実名を報じたマスコミは少年法61条に問われるとこはありません。

また、実例でご紹介した事件の場合は、少年Aの実名が、週刊新潮で報じられる以前に、ネット上で実名が明かされていたことも理由のひとつとされています。

■刑事責任能力がない

精神障害などにより物事の善悪が判断できない人が事件で逮捕された場合、マスコミは実名での報道を控える傾向にあります。

その理由は、刑法39条で「心身喪失者は、罰しない」「心神耗弱者の行為は、その刑を軽減する」と定めているからです。

「心身喪失」とは、精神障害などで全く善悪の判断ができない状態のことで、社会的な責任が無能力と判断され場合に適用されます。
「心神耗弱」とは、心身喪失まではいかないが著しく善悪の判断が低下している状態で、社会的な責任が部分的に失われている場合のことを指します。

つまり、心身喪失者や心神耗弱者が犯人の場合は、社会的責任能力がないとされて、無罪になる可能性もあります。そのため、マスコミは実名報道することが難しくなります。

逮捕された犯人が刑法39条に該当するかは、逮捕後の精神鑑定によって判断されます。したがって、逮捕された当初は、刑法39条に該当するか不明で実名報道された事件でも、後に精神鑑定により犯人が心身喪失者や心神耗弱者と判断されるケースもあります。その場合は、心身喪失者や心神耗弱者の可能性があるとわかった時点から、実名を伏せて続報を伝えるようになります。

■捜査段階でまだ逮捕していない

マスコミは事件の犯人が逮捕された時点で、はじめて犯人の実名を報じることができます。

例えば、事件に深い関わりがあり、おそらく犯人と疑われる人物 がいたとしても、逮捕されなければ名前を報じられません。もしも、逮捕される前に実名で報じ、その後にその人物が犯人でないとわかった場合、マスコミは疑いがあった人物から名誉毀損で訴えられる可能性があります。
そのため、疑わしい人物が警察で取り調べを受けている時点では、「重要参考人」などと表記して犯人逮捕が間近であることを伝えます。

また、事件が発生し、犯人と疑わしい人物が逃走した際は、逮捕に至らなくても実名で報道するケースがあります。事件が発生した地域、その周辺地域の人々に逃走した人物がいることを知らせ、身の安全を守るようにと周知させることが目的と考えられます。

■在日外国人である

事件の加害者が日本に住む外国人だった場合、民族的差別を助長する可能性があると考えられる時は、実名ではなく匿名や通名で報道することがあります。

実名報道の基準

殺人のような凶悪事件の場合は、犯人が逮捕されると、報道機関は前項の例外以外は原則として実名報道します。名前のほか、年齢、職業、さらには顔写真などで容姿も伝えられます。

ですが、傷害や飲酒運転、横領や違法薬物使用、痴漢など社会的に影響が少ない場合、実名報道が犯人にとって過度な社会的制裁になりかねないと判断されると、実名を伏せて報道する傾向にあります。

しかし、通常であれば実名を伏せるニュースであっても、犯人の職業などによって名前が伝えられることもあります。
例えば誰もが一度は耳にしたことのある大企業の社員、会社経営者、大学教授、公務員などが挙げられます。このような職業の人が犯人となった時に実名報道される理由は、一般の会社員よりも話題性があるとされているからです。

例を挙げると、芸能人が万引きで逮捕されてニュースになる場合がありますが、一般の主婦が万引きで捕まってもニュースになる可能性は低いと言えます。
このように、世間の関心を引くことが予想される場合は、実名で報じられることがあります。

実名報道をするか否かの基準は、法律などで特に定めがなく、各報道機関の判断に委ねられています。

逮捕されれば犯罪者!

原則としてマスコミは、警察が逮捕した段階で、「犯人」として名前をニュースに載せますが、日本の法律では、警察に逮捕された後、検察庁で「起訴」「不起訴」の判断が下り、その後に裁判で有罪となった時点で刑が確定する仕組みになっています。

つまり、警察が逮捕した時点では、犯人はまだ‘疑わしい人物’という意味の「被疑者」の段階です。しかし、マスコミは‘犯人’として報道しているということです。

ですが、警察もきちんと捜査を行い、証拠を揃えた上で逮捕に踏み切ったとされるため、マスコミがこの時点で実名を報じているとも考えられます。

被疑者とは、捜査機関である警察などが、事件に深い関わりを持ち犯人と最も疑わしい人物のことで、検察庁で起訴される前のことを言います。
マスコミは報じる際、「被疑者」(ひぎしゃ)と「被害者」(ひがいしゃ)の2つの言葉が似ているため、「被疑者」を「容疑者」に置き換えて伝えています。

起訴とは、検察庁が裁判所に「この人、犯人の可能性が極めて高いので裁判してください!」と裁判を提起することを指します。

不起訴や無罪になってもネットでは犯罪者のまま

警察が、犯人と確証を持って逮捕しても、その後の検察庁の取り調べで「不起訴」(※)となる場合もあります。
また、検察庁で起訴されても、その後の裁判で無罪となることもあります。

上記の場合、マスコミは既に逮捕の時点で‘犯人’として報道しています。つまり、犯罪者として世間に伝えられてしまっています。

マスコミは、逮捕された犯人を「山田太郎容疑者(仮名)」と名前の最後に「容疑者」と付けて報じますが、不起訴や無罪となったことを受けると、「山田太郎さん(仮名)」と容疑者を取り外して報道するようになります。
それは、裁判で無罪となった場合でも同様です。

不起訴や無罪となれば、犯罪者ではなくなりますが、ネットには逮捕された時のニュースが残ったままになり、その後の人生に影響をおよぼすことが考えられます。

※「不起訴」とは、検察が調べた結果、裁判をしても有罪になる見込みがない場合を指します。 つまり、事件の犯人ではない可能性がある場合に不起訴となります。

ネットでは犯人のまま…どんな影響があるか

これまでお伝えしたように、警察に逮捕された時点で、事件の犯人は実名で報道されます。
社会的に大きな影響を与える凶悪事件でなくても、大企業の社員や公務員、大学教授や会社経営者など注目度が高まりそうな職業の人は、犯人として実名報道されやすい傾向にあります。

もしも、犯罪をしてしまったことで警察に逮捕され、それが実名報道された場合、罪を償い社会復帰した後でも実生活に影響を及ぼす可能性あります。

ネットニュースが及ぼす影響

インターネットが普及した現代では、大手新聞社などもネット上にニュースを配信しており、正確で新鮮なニュース記事を読むことができ、利用している人も多いことでしょう。

便利になった一方で、ネットに一度配信された記事は、半永久的に残ってしまうことがあるため、苦しむ人がいることも確かです。

大手新聞社が配信するニュース記事は3ヶ月ほどで削除されることがあります。しかし、例えば削除される前にまとめサイトや匿名掲示板などに引用された場合、半永久的に残る可能性があります。
したがって、一度でも犯人としてネットニュースで報じられてしまうと、罪を償った後でも、記事は消えず、ネットで名前を検索すると犯罪者としての過去が出てきてしまいます。
このことで、社会復帰が上手くいかずに悩んでいる人が存在します。

ネット検索で犯罪歴がわかると、どのような不利益が考えられるのでしょうか。以下で具体的に挙げてみます。

■就職で不利になる

罪を償った後、社会復帰するために、まずは生計を立てなければなりません。そのためには、仕事を探す必要がありますが、ネットで犯罪歴が出てしまうと、就職の際にとても不利になることが予想されます。

例えば、インターネットが普及している現代で、面接に行った企業の人事担当者が、応募者の名前を検索する可能性があります。
検索結果で、逮捕された記事がでてきた場合、一般的には不採用となる場合が多いことでしょう。
名前だけならば、同姓同名も考えられますが、実名報道される場合は年齢、住所、職業、容姿(顔写真)なども同時に公表されます。

このようなことが理由で不採用が続くと、新たな仕事に就くことができず、社会復帰の阻害となってしまします。

また、採用されて就職できたとしても、犯罪歴を隠して入社した場合、その後バレてしまったら職場内で不当な扱いを受ける可能性もあります。
このことによって、職を転々とする生活から抜け出せないことも考えられます。

■結婚で不利になる

ネット上に犯罪歴が残ったままだと、社会復帰した後の異性との交際は難しくなる場合があります。
恋人の名前をネット検索した際、逮捕された過去がでてきてしまうと、関係が崩れて破局に至ってしまう可能性があります。

また、交際相手が犯罪歴を承知の上で交際し、結婚することになった場合は、交際相手の両親や親戚から反対されることが考えられます。

■賃貸契約で不利になる

就職をするためには、住所が必要となり、身寄りのない人は賃貸のアパートやマンションを探さなければなりません。

その際、ネット上に残ったままの犯罪歴で賃貸契約の審査に通らないことがあります。また、アパートやマンションの大家さんが見つけた場合、入居を拒否することも考えられます。

■家族・親戚が偏見を持たれる

いつまでもネット上に逮捕された時の記事が残っていると、本人のみならず家族や親戚にも影響を及ぼします。

務めている会社や近所の住人から、嫌がらせや心無い言葉を言われることもあるかもしれません。
そのようなことが原因で、心を病み転職や転居をする場合も考えられます。しかし、ネットに家族や親戚の犯罪歴が残っていることで、転職先や引越先でも同様の嫌がらせを受ける可能性もあります。

 

過去の犯罪は忘れるべき!?「忘れられる権利」とは?

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「忘れられる権利」とは、インターネット上のプライバシー保護についての観点から生まれた権利の概念です。

 ネットの存在が人々にとって当たり前になっている現代で、ネット上に掲載された個人情報が半永久的に残るようになりました。
 このことで、適切な期間が過ぎた個人情報は、削除されるべきだという考えがあり、近年注目を集めています。

 この権利は、もともとはヨーロッパから広まりました。
フランス人女性が2011年、過去に撮影されたヌード写真がネット上に掲載されていることについて、Googleに対して削除を求め提訴しました。
 これに対して、欧州司法裁判所は、女性の訴えを認め、Google側に削除命令を下しています。
 この判決が、世界ではじめて「忘れられる権利」を認めたものとされています。

日本における「忘れられる権利」

 ネット検索で出てくる過去の犯罪歴も「忘れられる権利」に該当するのではないか、という考えが日本でも起こりました。

【忘れられる権利が明示された判例】

 2015年、過去に児童買春・児童ポルノ禁止法違反で罰金50万円の略式起訴が確定した男性が、米国のGoogle本社に対して、自身の逮捕に関する情報の削除を申し立てたことを受けて、さいたま地方裁判所は、「忘れる権利」があると判断。Googleに削除するように命令を下しました。
 この裁判は、日本ではじめて「忘れる権利」が明示され争われました。

 しかし、東京高等裁判所は、さいたま地裁の判決を取り消し、「忘れられる権利」を否定する判決を示しました。
 この裁判は、最高裁判所でも争われましたが、最高裁も男性の訴えを退き、削除を認めないことでGoogle側の勝訴が確定しました。

日本ではネットに時効はない!?

 前述したように、日本の司法機関の頂点である最高裁判所が、「忘れられる権利」を認めない姿勢を示したことで、国内におけるこの権利の確立は難しい状況と言えます。

 最高裁は判決の中で、「罪を償った人物がネットでの社会的制裁を受け続けるのは問題があるが、一方でネットに残る情報が犯罪被害の予防に役立つことがあるのも事実。」としています。

実質的にネット上では、一度罪を犯した人物に時効はないとも捉えられるため、今後しばらくは犯罪歴の削除が難しくなるという見解もあります。

どうしても我慢できない!!逮捕歴は削除できるか?

 前項では、日本における「忘れられる権利」は認められることが難しく、犯罪歴の削除は困難とお伝えしました。
しかし、ネットで自分の名前を検索すると、過去に罪を犯し逮捕された時の情報が出てくることは、社会復帰後の実生活において大きくマイナスの影響が及ぶことが予想されます。

 犯罪歴の削除を行う場合、情報が掲載されているサイト一つひとつに削除の依頼することも可能です。しかし、掲載されているサイトが複数ある場合、削除の作業は時間と労力ばかりかかり、現実的な削除方法ではありません。
 有効的な方法としては、ネット上に掲載された情報の削除問題に詳しい弁護士に依頼することが考えられます。

弁護士に依頼して削除申し立て

 現在、ネット上でのトラブルは多く、悩みを抱えている人が後を絶ちません。
 その中でも多いトラブルは、SNSや掲示板での誹謗中傷と言われています。誹謗中傷を受けた人は、その情報を削除したいと願うことが多く、トラブル解決に向けて弁護士への依頼が増えています。

 犯罪歴の削除も同様で、弁護士に相談して問題解決に向かうことが有効的な手法のことでしょう。
 
お伝えしたように犯罪歴の削除は、判例の通り難しいことが予想されます。しかし、一審のさいたま地裁は削除を命令する判決を下しています。
また、2014年には、かつて不良グループに所属していた男性が、現在は所属していないにも関わらず、ネット検索すると所属していたことに関する情報が表示されて実生活に影響を及ぼすとして、Googleに対して提訴。これに対して東京地方裁判所は、一部削除を認める判決を下してしています

 したがって、裁判を通じたGoogleやYahooへの削除命令は少しの見込みはあるとも考えられます。

 弁護士に依頼する場合は、ネット上でのトラブルに強い弁護士に相談することがよいでしょう。インターネットの普及とともにトラブルも多く発生し、さまざまな事例を経験している弁護士が存在します。そのような専門家に依頼することが、悩み解決への一番の近道かもしれません。

最後に

 ネット上に残る過去の逮捕歴を消すことができないということは、当事者にとってとても致命的な問題です。
 お伝えした通り、就職や住む場所を探すことが困難となると、更生して社会復帰するのに大きな障害となります。

 社会復帰が難しくなる原因は、逮捕された際の実名報道という考え方もできます。
 そもそも、「実名報道は必要か?」と思う人もいるかもしれません。

 もしも、事件や事故を伝える全てのニュースが、加害者と被害者を実名で報じなかった場合、そのニュースをリアルに感じ、親身になって受け取ることができるでしょうか。

 加害者の場合、最高裁が判決で示した通り、再犯の防止に繋がる可能性があります。しかし、被害者の実名報道については、遺族の感情への配慮が欠けるとして、たびたび議論になることがあります。

 では、被害者の実名報道については、どのような理由でされるのでしょうか。

 以前、ジャーナリストの池上彰さんがテレビ番組に出演した際、2017年10月に発覚した「座間9遺体事件」の被害者が実名で報じられたことに絡み、マスコミが実名報道にこだわる理由について、「匿名になった途端、抽象的になってしまう」と語っていました。

 「匿名にすると、その被害者はどういう人なのか、どのような生活環境だったのか、なぜ事件に巻き込まれたのかっていうことが、呼んでいる側、見ている側がよくわからないのではないか」

 さらに、被害者が実名報道されることによって、確かにこの世の中で生きていたという「存在証明」を担えると同時に、事件防止の対策を考えるきっかけになる可能性があると解説しています。

 今後も、ネット上に残る自身のマイナスな情報に悩む人は増えると見込まれ、問題の対策が期待されます。