ネット上に残る犯罪歴・逮捕歴の削除基準:依頼をすれば削除は可能

ネット上に残る犯罪歴・逮捕歴の削除基準:依頼をすれば削除は可能

 残酷な殺人や巨額な詐欺など世間を震撼させる事件から、スポーツやエンタメニュースまで…。日々、さまざまなニュースが報じられ、私たちはそれをテレビや新聞、ネットなどで目にしています。

 殺人や詐欺などの事件の場合、加害者(犯人または被疑者)の名前、被害者の名前が報じられる場合があり、実名を知ることで事件をリアルに感じ、関心を持つ人もいることでしょう。

 しかし、この実名報道が本人にとっては一生苦しむことになる繋がることがあります。

 この記事では、実名報道された加害者側の観点から、ネット上に残る犯罪歴(事件を起こして、警察に逮捕された経歴:不起訴の場合も含む)・逮捕歴(警察に逮捕された経歴:事件を起こしていない場合も含む)の削除についてご紹介します。

 

犯罪歴・逮捕歴がもたらす不利益

 未成年や、精神障害等のよる物事の善悪が判断できない等で刑事責任能力がない場合等を除いて、警察に逮捕された時点で、事件の犯人は実名で報道されます。

 社会的に大きな影響を与える凶悪事件でなくても、大企業の社員や公務員、大学教授や会社経営者など注目度が高まりそうな職業の人は、犯人として実名報道されやすい傾向にあります。

 インターネットが普及した現代では、大手新聞社などもネット上にニュースを配信しており、正確で新鮮なニュース記事を読むことができ、利用している人も多いことでしょう。

 便利になった一方で、ネットに一度配信された記事は、半永久的に残ってしまうことがあるため、苦しむ人がいることも確かです。

 大手新聞社が配信するニュース記事は3ヶ月ほどで削除されることがあります。しかし、例えば削除される前にまとめサイトや匿名掲示板などに引用された場合、半永久的に残る可能性があります。

 したがって、一度でも犯人としてネットニュースで報じられてしまうと、罪を償った後でも、記事は消えず、ネットで名前を検索すると犯罪者としての過去が出てきてしまいます。

 このことで、社会復帰が上手くいかずに悩んでいる人が存在します。

 ネット検索で犯罪歴・逮捕歴が分かると、どのような不利益が考えられるのでしょうか。以下で具体的に挙げてみます。

【不利益①】就職で不利になる

 罪を償った後、社会復帰するために、まずは生計を立てなければなりません。そのためには、仕事を探す必要がありますが、ネットで犯罪歴・逮捕歴が出てしまうと、就職の際にとても不利になることが予想されます。

 例えば、インターネットが普及している現代で、面接に行った企業の人事担当者が、応募者の名前を検索する可能性があります。検索結果で、逮捕された記事がでてきた場合、一般的には不採用となる場合が多いことでしょう。

 名前だけならば、同姓同名も考えられますが、実名報道される場合は年齢、住所、職業、容姿(顔写真)なども同時に公表されます。

 このようなことが理由で不採用が続くと、新たな仕事に就くことができず、社会復帰の阻害となってしまします。

 また、採用されて就職できたとしても、犯罪歴・逮捕歴を隠して入社した場合、その後バレてしまったら職場内で不当な扱いを受ける可能性もあります。

 このことによって、職を転々とする生活から抜け出せないことも考えられます。

【不利益②】結婚で不利になる

 ネット上に犯罪歴・逮捕歴が残ったままだと、社会復帰した後の異性との交際は難しくなる場合があります。

 恋人の名前をネット検索した際、逮捕された過去がでてきてしまうと、関係が崩れて破局に至ってしまう可能性があります。

 また、交際相手が犯罪歴・逮捕歴を承知の上で交際し、結婚することになった場合は、交際相手の両親や親戚から反対されることが考えられます。

【不利益③】賃貸契約で不利になる

 就職をするためには、住所が必要となり、身寄りのない人は賃貸のアパートやマンションを探さなければなりません。

 その際、ネット上に残ったままの犯罪歴・逮捕歴で賃貸契約の審査に通らないことがあります。また、アパートやマンションの大家さんが見つけた場合、入居を拒否することも考えられます。

【不利益④】家族・親戚が偏見を持たれる

 いつまでもネット上に逮捕された時の記事が残っていると、本人のみならず家族や親戚にも影響を及ぼします。

 務めている会社や近所の住人から、嫌がらせや心無い言葉を言われることもあるかもしれません。

 そのようなことが原因で、心を病み転職や転居をする場合も考えられます。しかし、ネットに家族や親戚の犯罪歴・逮捕歴が残っていることで、転職先や引越先でも同様の嫌がらせを受ける可能性もあります。

 

犯罪歴・逮捕歴の削除基準

 犯罪歴・逮捕歴は、個人のプライバシーに関わる情報なので、第三者にみだりに公開されない権利があります。しかし、一方で犯罪歴・逮捕歴は公益性のある(世間一般に役立つ)情報であり、国民の知る権利の対象にもなっています。

 そのため、犯罪歴・逮捕歴の削除を判断する際は、個人のプライバシーと知る権利を天秤に掛けて考えます。その際、以下の要素を総合的に判断していきます。

■事件の内容
■処分の内容
■事件を起こした時期
■当該個人の日常生活の支障有無

 1つずつ見ていきましょう。

【基準①】事件の内容

 犯罪歴・逮捕歴と一口に言っても、その内容によって社会的関心度は全く異なります。例えば、交通違反事件より殺人事件の方が社会的関心度は高いです。

 そのため、対象の事件の内容によって、犯罪歴・逮捕歴の削除の可否は、大きく左右します。

【基準②】処分の内容

 事件の内容だけでなく、処分の内容も判断の基準に含まれます。それは、処分の内容も社会的関心度を左右する要素になる傾向があるためです。

 例えば、逮捕されたが不起訴になったり、裁判で無罪判決が下って前科なしだったり等の場合は、公益性が高くないと判断され、削除されやすい傾向にあるでしょう。

 一方、逮捕されて起訴された場合や、有罪判決を受けて前科がある場合等は、公益性がある情報と判断され、削除されづらい傾向にあります。

執行猶予付きの前科は削除されやすい

 有罪判決が下り前科がある場合でも、実刑がない執行猶予付きだと、比較的削除されやすい傾向があります。

 但し、執行猶予中は、削除は難しいかもしれません。

【基準③】事件を起こした時期

 事件を起こした時期も削除基準に含まれます。それは、時間の経過につれ、社会的影響が弱まり、事件が風化される傾向にあるためです。

 具体的な基準はありませんが、例えば、東京地方裁判所では、「事件後3年程度」の時間の経過が必要と考えられています。

【基準④】当該個人の日常生活の支障有無

 犯罪歴・逮捕歴がネット上に残ることで、当該個人の日常生活に支障があるかどうかも、削除基準になります。

 例えば、犯罪歴・逮捕歴が公表されているものの、日常生活に支障がなく具体的な不利益を被っていない場合は、国民の知る権利が優先される傾向にあります。

 一方で、犯罪歴・逮捕歴が公表されることによって、就職が難しくなっている等の具体的な事由がある場合は、当該個人のプライバシーが優先され、削除出来る可能性が高くなります。

 

ツイッターとグーグル検索の検索結果に対する削除依頼

 ネット上に公表されている犯罪歴・逮捕歴にお困りの方で、削除希望するのが多いのがツイッターとグーグルの検索結果です。
 ツイッターとグーグルの検索結果では、それぞれ削除基準が設けられているものの、明確な削除希望の理由を示せば削除してくれる可能性があります。
 その際は、例えば以下のように、「自分は誰なのか」「どのような不利益を被っているのか」を明確にするのがベターです。

○○(サイト名)の管理者様

 

突然のご連絡を失礼いたします。
〇〇○○と申します。
この度、当サイトで投稿された記事について削除をお願いしたく、ご連絡を差し上げます。
削除依頼の対象は、以下の記事です。

サイト名
記事タイトル
リンク(URL)

私の逮捕歴に関する上記の記事が検索エンジンの氏名検索で表示されるため、○○○○○(就職が決まらない、婚約が破談になった等の被害)のように日常生活に支障が出ている状況です。

当該記事の情報は私個人のプライバシー情報に該当します。情報の公開により不利益も生じているので、記事の削除の対応をご検討いただけませんでしょうか。
なお、削除に応じてもらえない場合は、法的措置での対応も検討しております。

以上、どうぞよろしくお願い申し上げます。

引用元:https://itbengo-pro.com/columns/140/#toc_anchor-1-6-1

 なお、ツイッターの削除依頼についてはこちらの記事「ツイッターの誹謗中傷を削除依頼する方法:相手には通知されない」、グーグルの削除依頼についてはこちらの記事「Googleの検索結果から削除する方法:キャッシュ削除申請方法も解説」で詳しく説明しています。ぜひ、併せてご覧ください。

 

仮処分による削除

 削除依頼を行っても、必ず対応されるとは限りません。もし、削除されない場合は仮処分という一手があります。

 仮処分とは、裁判をせずに勝訴(裁判で勝つこと)時と同じ状態を確保する手続きのことをいいます。仮処分が成立すると、裁判所からサイト運営者に対し、問題のある投稿の削除が命じられます。運営者は、その命令に従わなければなりません。

 拡散される危険があるインターネット上のトラブルは、スピーディーな解決が望まれます。ですので、裁判より短期で判決が下される仮処分が行われるのが通例なのです。

 

弁護士への相談も一手

 現在、ネット上でのトラブルは多く、悩みを抱えている人が後を絶ちません。
 その中でも多いトラブルは、SNSや掲示板での誹謗中傷と言われています。誹謗中傷を受けた人は、その情報を削除したいと願うことが多く、トラブル解決に向けて弁護士への依頼が増えています。

 犯罪歴・逮捕歴の削除も同様で、弁護士に相談して問題解決に向かうことが有効的な手段と言えるでしょう。

 例えば、2014年には、かつて不良グループに所属していた男性が、現在は所属していないにも関わらず、ネット検索すると所属していたことに関する情報が表示されて実生活に影響を及ぼすとして、Googleに対して提訴。これに対して東京地方裁判所は、一部削除を認める判決を下してしています
したがって、裁判を通じた削除命令は少しの見込みはあるとも考えられます。

 弁護士に依頼する場合は、ネット上でのトラブルに強い弁護士に相談することがよいでしょう。インターネットの普及とともにトラブルも多く発生し、さまざまな事例を経験している弁護士が存在します。仮処分による削除も代行してくれます。弁護士に依頼することが、悩み解決への一番の近道かもしれません。

【関連記事】ネット誹謗中傷を弁護士に依頼する際の費用:事例を交えて解説

 

最後に

 ネット上に残る犯罪歴・逮捕歴を消すことができないということは、当事者にとってとても致命的な問題です。
 お伝えした通り、就職や住む場所を探すことが困難となると、更生して社会復帰するのに大きな障害となります。

 今後、ネット上に残る犯罪歴・逮捕歴に悩む人は増えると見込まれ、対策が期待されます。